日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

Lee Silverman Voice Treatment(=LSVT®)について思う(2021/07)

本年4月より高松医療センターではLSVT® を中心としたパーキンソン病のリハビリテーション入院を始めました。その理論と効果についてご紹介させていただきます。
パーキンソン病の運動障害の原因の一つは無動や筋強剛による運動低下ですが、内部キューイング(自らの行為を促す能力)の異常運動感覚処理能力(自己校正力)の低下前頭葉障害(注意障害、整理・処理・実行能力の低下など)も大きな影響を与えています。
LSVT (=Lee Silverman Voice Treatment) とはRamigらが1994年に考案したパーキンソン病に対する発声発話訓練法ですが、2000年代には理学療法・作業療法領域への応用が実用化しLSVT® LOUD、LSVT® BIGと呼んで区別されています。内容の詳細説明は割愛しますが、治療の標的を単一の行為(LOUDでは大きな声を出すこと)に絞ること、特異的・実用的訓練を集中的に繰り返すこと、自己校正力を徹底強化することの3点が特徴です。LSVT®の効果は世界的に知られていますが、脳画像研究においても補足運動野の異常活動の正常化や大脳基底核の活動増加が報告され、非運動障害も改善させるほか病気の障害を遅らせる可能性も示唆されているとのこと。またLSVT® LOUDは嚥下障害への効果にもエビデンス研究が散見されます。
当院のパーキンソン病リハビリテーション入院は、LSVT®を中心に、医師による疾患についての講義、看護師による個別の目標設定援助や自主練習課題の評価、薬剤師による薬剤指導、NSTによる栄養・嚥下の評価・指導など、チームで関わる4週間入院です。認知機能の低下が著しい患者さんへの効果はいまひとつですが、中には状態がみるみる変化し運動機能の改善だけでなく性格も明るくなったように感じられる患者さんもおり、いままでにない手ごたえを感じております。まだ始めたばかりで効果の判定には至りませんが、長期効果も含めてフォローしたいと思います。
LSVT®の応用としてLSVT ARTIC(声量の代わりに明瞭さを標的とする訓練)も推奨されているとのこと。嚥下障害の改善を目指すなら標的を何に絞るべきか・・・と思いを巡らせる今日この頃です。

(参考文献)
・Ramig L, et al.Voice treatment for patients with Parkinson disease:Development of an approach and preliminary efficacy data. J Med Speech Lang Pathl.1994;2:191-209
・Farley B G, et al. Training BIG to move Faster:the application of the speed-amplitude relation as a rehabilitation strategy for people with Parkinson’s disease. Exp Brain Res.2005;167:462-467
・倉智雅子.特集/パーキンソニズムのリハビリテーション診療 パーキンソニズムの言語聴覚療法.
MB Med Reha.2020;248:31-38
・Ramig L, et al.Impact of LSVT LOUD and LSVT ARTIC on speech intelligibility in Parkinson’s
disease. Mov Disord.2015;30:S112-113

国立病院機構高松医療センター 神経内科

市原 典子