JSDNNMの歴史を振り返る(2022/09)
私が在宅医療を始めた40年ほど前は、嚥下が難しくなると鼻腔からカテーテルを入れるのが普通でした。ところが簡便で安全な胃瘻造設が可能となってきたため、胃瘻が一般的になり、多くの老人介護施設では入所の条件に胃瘻造設が加えられています。
生きる上での最大の楽しみの一つともいえる経口摂取ができなくなると、生きている意味がどこにあるのかと考えてしまいます。哲学者、山折哲雄氏の『断食による餓死』を理想的な人生の幕引きという考え方も、今後の超高齢社会ではあながち荒唐無稽な考え方とするわけにもいかなくなりそうです。
1992年発行の日本医事新報に、「ALSの『食事のしおり』作成と長期慢性疾患患者のケアの実態」というタイトルで、前年に作成した「食事のしおり」という小冊子と当時の介護の実態について検討したものが掲載されました。
私たちは1981年からALSの在宅医療と取り組んできましたが、在宅医療を長期に継続させるためには嚥下障害と呼吸障害をいかに克服できるかが問題となりました。そこで前者の問題を解決するために「食事のしおり」を作成し、食事の献立や素材の形、食べる姿勢や食台の工夫、経管栄養の実際、モデルメニューの作成など、患者家族が読みやすく、簡単な工夫で長続きする方法を考えました。朝日新聞の家庭欄などに取り上げられて、全国の患者家族から多くの申し込みがあり、私にとってはALS協会や多くの関係の方々との交友ができる契機にもなりました。
2005年には第1回「日本神経筋疾患、摂食・嚥下・栄養研究会」学術集会長崎大会の大会長を仰せつかりました。また2007年の徳島市で開催されたフランス料理シェフの多田鐸介さんの講演と、お昼の「嚥下障害食バイキング」も印象に残るイベントでした。
そして2019年の岐阜大会から、JSDNNMは研究会から学会となり 日本神経摂食嚥下・栄養学会(JSDNNM)と改称されました。そして2022年9月には、第18回大会が清水大会長のもとで開催されました。
「天の時、地の利、人の和」 という言葉があります。この三つの要件が組織の発展のためには重要な要素だと言われてきましたが、学会の発展もしかりです。今後の日本の高齢社会を展望するとき、本学会はまさに必要となる事柄(天の時と地の利)を研究していくものであり、また代表理事の野崎先生を中心に会員の和も備わっていますので、今後も大きな発展を期待できるものと信じています。
鹿児島県難病相談・支援センター
福永 秀敏