COVID-19と嚥下障害(2020/11)
COVID-19は依然として世界で猛威をふるっており、今年の各学術集会では、このテーマの講演や報告が相次いだ。
European Society for Swallowing Disorders(ESSD) 2020の開催は、コロナ禍のため、すべてWEB発表(Q&Aのみonline)であった。ESSD2020演題のうち、COVID-19と神経障害・嚥下障害に注目した興味深い講演は“Dysphagia in COVID-19 –multilevel damage to the swallowing network-(Dziewas R.)”であった。
中国武漢市のCOVID-19指定医療機関でのCOVID-19連続214症例の神経症状の後ろ向き研究が紹介された。(1)中枢神経障害(めまい、頭痛、意識障害、脳卒中、運動失調、発作)、(2)末梢神経障害(味覚障害、嗅覚障害、視覚障害、神経痛)、(3)筋障害と、広範な嚥下に関する神経ネットワークに障害が及んでいた。全体の36.4%に神経症状を認め、中枢神経障害24.8%、末梢神経障害8.9%、筋障害10.7%で、頻度の高い中枢神経症状は、めまい・頭痛、末梢神経症状は、味覚障害・嗅覚障害であった。米国胸部学会の市中肺炎ガイドライン分類によると重症例が88例(41.1%)であり、重症例は、非重症例に比して高率に神経症状がみられた (45.5% vs. 30.2%, p=0.02)。
また、他の報告では、COVID-19 の急性呼吸窮迫症候群(ARDS)による気管内挿管下呼吸管理から離脱した101名のサバイバーに嚥下障害がみられる割合は、重度嚥下障害(経管栄養が必要)20%、中等度(嚥下障害で何らかの食制限が必要)54%であった。嚥下障害の原因として、気管内挿管そのものも一因の可能性があるが、嚥下の神経ネットワークの中枢神経・末梢神経から筋に至る広範な障害により、様々な症状の嚥下障害を呈すると考えられている。
ARDSにより呼吸管理に至る時点で、すでに高度の嚥下障害が存在するが、重症の呼吸不全のために、ベッドサイドにおける嚥下評価がなされていない可能性も指摘されている。一方、呼吸と嚥下の協調障害についてもいくつかの報告がある。
COVID-19感染症の病態や臨床経過のデータは現在集積中であり、今後さらなる知見の報告が続くと思われる。重症例のみならず、中等症からのサバイバーの神経症状・嚥下障害については、検者の感染対策に留意しながら注意深くベッドサイド評価を行い、摂食嚥下対策を行っていく必要があると考える。
主な参考文献
*Mao L, et al. JAMA Neurol. 2020; 77: 683-690
*Dziewas R, et al. Eur J Neurol 2020; 27:10.1111
わかくさ竜間リハビリテーション病院 野﨑園子