日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

ALS患者の%FVC50%時入院について(2018/03)

ALSの診療に携わっていると、いくつかの重要なタイミングがあります。それは、告知のタイミング、経皮内視鏡下胃瘻造設術 (PEG) のタイミング、非侵襲的陽圧換気療 (NPPV) 導入のタイミング、気管切開下人工呼吸(TPPV)開始のタイミングなどです。その過程で、%努力性肺活量 (%FVC) 50%の時期は1つの分岐点であると感じています。%FVC50%と言えば、NPPV導入および安全にPEGをおこなえるクリティカルピリオドの目安となる時期です。発症のタイプと進行速度にもよりますが、最初に告知を受けた頃には精神的ショックが大きく、また症状が軽いため実感の湧かなかった患者も、この頃になると、自分の身体の変化を実感し疾患を受け入れることで今後の治療方針を選択する心の準備ができてくるように思われます。そういう時期に同じ病気の患者が療養している難病病棟に入院し、PEGやNPPV導入を進めつつ多職種からさまざまなアドバイスを受けることは、今後、自分がどこでどのような医療を受けたいか選択する良い機会となります。
慌ただしい外来診療の中で、医師1人がおこなえるサポートは患者・家族にとって十分とは言えません。%FVC50%時の入院では、まず血液ガス・血液栄養指標等の血液検査のフォローに加え、夜間の酸素飽和度モニター、嚥下造影検査、胸腹部CT等の検査をおこない、希望に応じてNPPVの導入、PEGをおこなうのですが、それと並行して他職種でのインフォームドコンセントをおこない、患者が疾患を理解し今後の症状変化を知ったうえで治療方針を決定や事前指示書の作成がおこなえるようサポートします。また、訪問看護導入や酸素飽和度測定器やポータブル吸引機などの機器購入の手続きなど、在宅への準備をおこない、在宅関係者会でサービス内容の調整をおこなった上で退院となります。
この入院以後、患者・家族の意思や要望に共通理解を持つサポートチームができ、お互いに情報交換をおこないながら患者を支えていってくれるので、非常に有用だと感じています。

国立病院機構 高松医療センター 市原典子