ALSにおける栄養障害(2012/04)
神経変性疾患を始めとする神経難病の患者さんは,さまざまな栄養・代謝障害を呈することが知られています。日本では,これまであまり注目されて来なかった神経難病の栄養障害ですが,この10年ほどの栄養サポートチームの普及により,少しずつですが注目をあびるようになってきました。日本静脈経腸栄養学会という大きな学会がありますが,5年前までは神経難病の演題はゼロでした。昨年は筋萎縮性側索硬化症(ALS)1題,多系統萎縮症1題,今年はALSの演題が3題発表されましたが,まだまだ少ないというのが実情です。
?ALSは疾患に特有な栄養障害を呈することが知られています。病初期に急激な体重減少を認めることが多く,ここ数年の報告では体重減少が他の因子とは独立した予後規定因子であることがわかっています。厚労省の班研究でも1年間に体格指数(body mass index)が2.5以上減少した患者さんは,進行速度が速いと報告されています(Shimizu T, et al., Amyotroph Lateral Scler, 2012, in press)。体重減少の原因は,骨格筋の喪失,嚥下障害による摂取カロリーの低下,上肢機能障害による摂食運動の障害,呼吸不全による消費カロリー増大など様々ですが,そのベースに何らかの代謝亢進があると言われており,ミトコンドリアの機能異常などが推察されています。予後規定因子である以上,疾患の本質にかなり近いところの現象であろうというわけです。
体重減少が激しいと進行が速いということですから,いかにそれを食い止めるかを考える必要があります。単純に考えるならばとにかく食べさせることです。しかし,嚥下障害がなくても食欲がない患者が多く,高カロリーをとらせることは容易ではありません。米国では高カロリー食の治験が始まるということですが,日本でも摂取カロリー量の調査と進行速度や予後との関連を調べ,どの程度の高カロリー食が有効なのかを今後調査していく必要があります(現在病期ごとの消費カロリー量測定の研究が進められています)。胃瘻造設は,カロリー摂取のための最も有効な手段と思われますが,体重減少が著しい患者さんには,嚥下機能が保たれていても胃瘻造設を行う方針でいくのがよいかもしれません。今後は,どの時点で胃瘻造設を行えば生命予後が改善するか,を詳細に検討しエビデンスを出していく必要があります。
東京都立神経病院 脳神経内科
清水俊夫