ALSにおける栄養療法 UP TO DATE(2013/07)
筋萎縮性側索硬化症(ALS)では病初期の急速な体重減少が独立した予後規定因子であることが報告されています。体重減少の原因は多因子ですが,ベースに疾患特有の代謝亢進が存在すると言われています。そのことに関し,世界の研究の趨勢をご紹介します。
まず2009年の米国神経学会ガイドラインでは,胃瘻の早期造設をうたっていますが,その目的が「体重の安定化と可能性として生存期間の延長」とされました。まだエビデンスは確立されていませんが,体重が減ると生命予後が悪いので,できるだけ体重を減らさないようにするというのが胃瘻造設の目的であると明記されました。
それでは何カロリーの食事をとったらよいかというのが問題ですが,マサチューセッツ総合病院主催で,高脂肪食の治験が行われました。胃瘻を造設したALS患者を対象に,Oxepaという食品の生命予後への有効性を検証する治験で, 2013年3月に締め切られました。結果はまだ出ておりませんが,公表が楽しみです。
それと並行して,最近DemosMedical社から「Amyotrophic Lateral Sclerosis: A PatientCare Guide for Clinicians」という本が出版されました。その中でKentucky大学Kasarskis教授からALS患者の必要エネルギー量についての指針(計算式)が報告されました。
TDEE = H-B BMR + (55.96 x ALSFRS-6) 168
(TDEE:total daily energy expenditure, 一日消費エネルギー量)
(H-B BMR:Harris-Benedict式から算出した基礎代謝量)
という式ですが,ALSFRS-6というのは,ALSFRSのうち発語・書字・着衣・体位変換・歩行・呼吸の6項目の点数の合計です。たとえば身長170cm,体重55kg,ALSFRS-6が19点の男性の患者さんですと,H-B BMRは1,335kcal,活動係数1.4の場合Harris-Benedict式では1,869kcalが必要ということになりますが,上記の計算式ではなんと2,764kcalとなります。これだけの多いエネルギー量を経口・経管でとらせることは容易ではありませんが,このように米国では非常に高カロリーの食事を患者さんに与えるというスタンスで研究が進んでいます。もちろん,この式が日本人に妥当かどうかは検証が必要であり,現在研究が進行中です。
東京都立神経病院 脳神経内科 清水俊夫