日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

口腔内崩壊錠(2014/12)

今月の情報 12月
兵庫医療大学  野﨑園子

口腔内崩壊錠

1997年にガスターD錠が発売されて以来、口腔内崩壊錠はD錠・OD錠・RPD錠・ES錠・RM錠など様々な名称で、今日までに医療用医薬品では約100種類の製品が発売され、一般用医薬品でも使用されている。

口腔内崩壊錠は「嚥下障害のある患者に有用」とのキャッチフレーズで、紹介されることがある。しかし果たして、実臨床ではそうであろうか?口腔内で溶けた(または十分に溶けきらなかった)薬は、唾液と混ざり、低刺激性の液体として、口腔・咽頭に長く貯留するのではないか?場合によっては誤嚥につながるのではないかと、摂食嚥下障害のケアを行っている現場では発売後早期より懸念されていた。

われわれは、和三盆で作成した模擬錠剤を用い、少数例の検討ながら、嚥下内視鏡での咽頭残留所見や患者が残留感を自覚していないことを報告した(臨床神経2009;49:90-95)。一方で、口腔内崩壊錠は「嚥下困難な患者において、服薬のアドヒアランスが向上する」との論文も散見される。これらの多くは、患者の自覚や介護者の予薬しやすさに基づく分析、または、口腔・咽頭通過時間や飲み込み回数における従来の錠剤との比較などの報告であり、客観的に口腔・咽頭クリアランスを観察したものは極めて少ない。

口腔内崩壊錠は製造技術にもさまざまに工夫されているようで、特に一包化した時の壊れやすさの解消や溶解性の改良などについてアピールされている。

先日、本学の地域住民向けのセミナーで、剤形の違う薬を出して話を始めた途端「この薬が飲みにくい!」と、OD錠を指差された方がおられた。神経内科医の間では、「口腔内崩壊錠がのみにくいとの患者さんの声がある」との話をよく耳にする。われわれが現在行っている「要介護者の服薬困難」に関する科研研究においても、 嚥下内視鏡で口腔内崩壊錠の咽頭残留が発見された症例などが寄せられている。

口腔内崩壊錠は水に溶けやすいので、経管内投与にはとても適している。また、「摂食嚥下障害のない方」が、頭痛薬や下痢止めの薬を急に必要としたときに、水なしでものめるメリットは大きいと思われる。
しかし、「摂食嚥下障害のある患者さん」には適さない場合もあることを、処方する医師や予薬する医療職・介護職が、念頭に置いておく必要がある。