首を切らずにすむ嚥下手術(2023/04)
「首を切られる手術は嫌やけど、切らずに口から手術できるんなら受けたいですわ」
ちょっと押しの強い関西弁でこう言われる患者さんが、他府県から来られます。紹介元で頸部を切開しない手術が滋賀で可能かも?と言われ、下調べして受診される方が多くなったせいかも知れません。
嚥下手術の一つに「輪状咽頭筋切除術(CPM, cricopharyngeal myotomy)」があります。旧来は頸部を切開する方法(外切開CPM)1)でしたが、近年は低侵襲を目指し、頸部を切開せずに口から輪状咽頭筋を切除する方法(経口的CPM)も行われています2,3,4)。国内で手術できる術者が少ないこと、小顎や開口障害の方には手術困難な問題がありますが、脳血管障害や緩徐進行性の神経筋疾患のなかでも輪状咽頭部通過障害を生じる症例には良い適応と思われます。
ちなみに外切開を要する「喉頭挙上術」をCPMと同時に行う場合5)はある程度の大きさの皮膚切開が必要です。しかし外切開CPM単独手術は大きな傷にはなりません。術者としては傷の大きさを気にされるだけなら外切開もありでは?と思うこともありますが、患者さんにとって頸部を切らないというのは大きなポイントのようです。
小生は以前からCO2レーザーでの経口的CPMを行っていました3,4)が、諸事情によりレーザーが使用できなくなりました。やむなく近年海外で報告のある胃カメラ用内視鏡を使用した「経口的内視鏡下CPM」6)を倫理審査委員会に申請し、2023年1月、封入体筋炎の方に1例目の手術を行いました。消化器内科との共同手術となるこの手術はまだ始まったばかりで、これから安全性と効果の検証となります。
嚥下手術は今後さらに低侵襲を求められ、冒頭の様に頸部切開をしない手術を希望する方も増えそうです。いずれ滋賀まで来なくても各地で同様の手術が受けられるようになることを期待します。
文献)
1)Kaplan S:Ann Surg 133:1951
2)Halvorson DJ, et al: Ann Otol Rhinol Laryngol 103: 1994
3) 河本勝之.嚥下医学4,2; 2015
4) 河本勝之他.日本気管食道科学会会報70,4: 2019
5) 河本勝之.嚥下医学 8,2: 2019
6) Peter I W, et al: Endosc Int 9,11: 2021
社会医療法人誠光会 淡海医療センター 頭頸部甲状腺外科センター・耳鼻咽喉科
河本 勝之