重症心身障害児(者)における医療・介護関連肺炎の原因菌について(2024/01)
- 医療・介護関連肺炎(nursing and healthcare-associated pneumonia:NHCAP)は,市中肺炎と院内肺炎の間に位置する医療ケア関連肺炎の定義に介護を強調して提唱されました1).中枢神経疾患等の合併,ADL低下,抗菌薬使用歴などが患者背景にありますが,主な発生機序は不顕性誤嚥のため,高齢者の誤嚥性肺炎の多い点が反映されています2).そのためADL不良患者に発症するNHCAP原因菌は,高齢者で検討されており1,2),児童や若年者についての検討はありませんでした.
そこで,中枢神経疾患によりADLの低下した重症心身障害児(者);重症児(者)のNHCAP原因菌,およびADLに関わる栄養摂取と呼吸管理による影響を検討しました3).対象は,重症児(者)男性5人,女性8人の計13人,中央値で19歳,全例が全介助,栄養摂取は経鼻経管7人,胃瘻6人,呼吸管理は気管切開4人,喉頭気管分離5人としました.方法は,唾液と非経口的に吸引痰を同時に採取し,唾液と喀痰に共通して分離培養された菌(共通菌)中のNHCAP原因菌を検討し,ADLの影響は被検者1人当たりの共通菌とNHCAP原因菌の株数を比較しました.その結果,唾液から96株,喀痰から82株が分離培養され,共通菌は49株でした.その内,NHCAP原因菌は36株で,唾液,喀痰各々の分離菌中38%,44%,また共通菌中73%を占めました.NHCAP原因菌の菌種は,口腔内レンサ球菌が11株と共通菌中22%と最多,次いでH. influenzaeが7株(14%),緑膿菌が5株(10%),MRSAおよびS. marcescensなど腸内細菌科が3株(6%)でした.これら5菌種は,高齢者で検討されたNHCAP診療ガイドラインのNHCAP原因菌であり1,2),また,本報告の被験者が入院する重症児(者)患者病棟で発症した呼吸器感染症の主な原因菌とも一致していたことから4),重症児(者)はNHCAP発症のリスクは高いと考えられました.
胃瘻と経鼻経管の被験者では共通菌とNHCAP菌の株数に違いはなく,胃瘻の誤嚥性肺炎予防効果は経鼻経管と差がない5)ことを示しました.しかし,喉頭気管分離の被験者では,共通菌の株数は施術なしが中央値で5株に対し,施術ありは2株と少なく(P<0.01),また,NHCAP原因菌の株数も施術なしが3株に対し,施術ありは1株と少ない結果でした(P=0.09).そのため,喉頭気管分離は口腔細菌の気管内への吸引を減らし,NHCAPの予防に有効であることが示唆されました.
文献
- 1)日本呼吸器学会 医療・介護関連肺炎(NHCAP)診療ガイドライン作成委員会編:医療・介護関連肺炎(NHCAP)診療ガイドライン.日本呼吸器学会,東京,2011.
- 2)Ishida T, et al. Clinical characteristics of nursing and healthcare-associated pneumonia:a Japanese variant of healthcare-associated pneumonia.Intern Med 2012;51:2537‐2544.
- 3)福本 裕, 他.重症心身障害児(者)における唾液と喀痰に共通して分離される医療・介護関連肺炎原因菌について.環境感染誌 2015;30:249-256.
- 4)赤池洋人,他. 重症心身障害児(者)病棟における呼吸器感染症治療の推移と検出菌の変化.日重障誌2008;33:87‐92.
- 5)Marik PE. Aspiration pneumonitis and aspiration pneumonia. N Engl J Med 2001;344:665-71.
国立精神・神経医療研究センター病院総合外科部歯科 福本 裕