日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

進行性核上性麻痺の頸部後屈と嚥下障害(2024/08)

進行性核上性麻痺(progressive supranuclear palsy;PSP)は、有効な薬物療法がないこともあり、パーキンソン病と比べて進行が速く、PSP–Richardson syndromeを含めたサブタイプの大半は罹病期間が5~10年とされています。死因には転倒による外傷の他、誤嚥性肺炎、窒息、栄養障害があり、原因として考えられる嚥下障害は、PSPの進行過程で80%の患者に出現します。嚥下障害の内容としては、舌の協調運動障害、咀嚼障害、咽頭への送り込み障害、口腔や咽頭の残留、嚥下反射の惹起遅延、喉頭侵入と誤嚥、上部食道括約筋の弛緩不全、食道通過障害など多岐にわたりますが、認知機能の低下や頸部後屈(左上図;進行とともに頸部が後屈することがあります)の影響も大きいとされています。

筆者らが56名のPSP患者を追跡した結果では、発症、診断、最終評価の平均年齢はそれぞれ 67.6 ± 6.4 歳、71.6 ± 5.8 歳、75.4 ± 5.6歳であり、平均追跡期間は64.6 ± 42.8か月でした。その間、24名(42.9%)の患者は経口摂取を継続していましたが、32名は経管栄養管理となり、その内16名は胃瘻造設を受けていました。診断時点での認知機能低下の有無(p<0.01)、初回VF評価時点での誤嚥の有無(右下図;p<0.01)、または診断時点での体軸固縮(頚部体幹に固縮が強く発現することがあります)の有無(p<0.05)が経口摂取を中止するまでの期間に影響を及ぼしていました。さらに、頸部後屈患者の多くに体軸固縮が認められ、両者の間には有意な相関関係が認められました(左下図;p<0.01)。

調査結果から、認知機能低下、体軸固縮、頸部後屈はPSPの嚥下障害に影響を及ぼしており、経口摂取の断念に繋がっていることが示唆されました。PSP患者の予後予測をするためにはこれらの所見を早期発見することが求められますが、頸部後屈が進行して舌根沈下すると、気道が狭くなり、気道閉塞を繰り返す場合は、気管切開が必要となることもあります。頸部後屈が一旦出現すると、有効な誤嚥防止策に乏しいのが現状です。

Iwashita Y, Umemoto G, et al. Front Neurol (2023) 14:1259327

 

福岡大学病院摂食嚥下センター 梅本丈二

20240822

:PSPは古典型PSPと称される症候群であるRichardson syndromeと、症状に左右差がありレボドパにある程度反応するParkinson病類似の臨床像を呈するものに分けられています。