誤嚥性肺炎の防止について(2015/11)
立冬を過ぎ、だいぶ気温も湿度も下がってきました。誰しも風邪やインフルエンザ対策を考える時期になりました。さらに、いつでも避けたい呼吸器疾患に肺炎があります。このコラムをご覧になる方々には特に最も避けたい症状の一つと思います。そこで今回は、この誤嚥性肺炎を避ける対策についてお伝えしたいと思います。
<誤嚥すると必ず誤嚥性肺炎を起こすか?>
答えはノーです。気管(気道)と食道が前後関係にあり、その交差点を通過させて飲み込むことになる人間の嚥下は、そもそもとても誤嚥を起こしやすい仕組みになっています。健常者でもある年齢(40歳代ともいわれていますが)になると、経年変化により誤嚥を起こすことがあります。誤嚥が肺炎に直結するわけではないのです。では、なぜ誤嚥性肺炎が起こるのでしょうか。
<誤嚥性肺炎に関係する要因>
それは、次の要因の大きさと複合度合いによって、身体の境界域を超えた時に起こるとされています。
①誤嚥の量:嚥下障害がある方々の摂食において、一口量の調整が大切な意味は、口腔内で安全に食塊形成ができ咽頭へ移送すること、そして嚥下ができることです。咽頭から食道の入口の直径は2cm足らずですから、無理な量を食道へ入れようとすると、食道と気管の分岐点で食道へ入りきれない量を無理に入れようとするとあふれた飲食物は気道の方へ入り込みます。これが声帯を越えて気管まで入ると誤嚥ということになります。この事態を避けるために一口で安全に飲み込むことができる量を守ることが大切です。
②誤嚥の内容:誤嚥物で最も避けたいものは胃酸です。胃食道逆流や吐物の誤嚥を避けるよう留意しましょう。
③体力や免疫力が肺炎の発症を防止できることは想像に難くありません。これらを維持する生活環境を整えることも大切です。
④喀出能力:最も有力な方法は、入った物を出すことができる喀出力です。これは自身の咳で出せることが第一です。体力、筋力の向上と喀出のコツをつかむことが大切です。
<では、対策は?>
まず、身体機能、耐久性の維持向上を様々な場面でサポートすること、必要に応じた適量の機能訓練を続けることが大切です。臥床時間をできるだけ少なくし、重力に抗して姿勢を保持する時間を持つこと、椅子や車椅子に乗ることが難しい場合はベッドを起こしてもたれた姿勢でも完全臥位よりも体幹筋、呼吸筋を使い、筋力トレーニングになります。
また、食事の際は疲労が少なく、嚥下しやすい姿勢を身体機能に合わせて工夫することが大切です。それでも疲労がみられたら、食器からすくい取ること、あるいは口元まで運ぶことを介助し、口への取り込みを自分で行う部分介助などを適宜取り入れて疲労の軽減を図ります。
そして、咳嗽訓練、排痰訓練をはじめとする呼吸理学療法を取り入れられることが大変有効です。理学療法士の方々には是非ご尽力頂きたいと思いますし、理学療法を受けておいでの方には是非ご相談頂きたいと思います。
神経難病の方に、呼吸の調整がしにくい、咳が出しにくいことはよくあります。そんなときは、軽い息止めをして「はーっ」と意気を吐いたり、強く呼気を吐くハッフィングなどの練習をすることがあります。私が長くお会いしている方で、しばらく前から軽い息止めも難しい方で、思い切って声を出して咳をするよう促してみたらしっかりとした咳として出せるようになった経験をしました。お腹(下腹の腹筋)に力を入れて「がーっ(咳の声です)」と大きな声で!という声の力みが咳嗽のコツになりました。また、大きな声を出す、ということも呼吸筋を使うので一石二鳥のトレーニングになります。
以上、誤嚥性肺炎の防止について記しました。細かい適応の内容は個々人の状況によってことなりますので、ここでは述べられませんが、誤嚥性肺炎とできるだけ無縁でいられる日々を過ごせるよう、日頃からできる自主訓練など、有効なことを用いられることをお勧めいたします。
埼玉県総合リハビリテーションセンター
言語聴覚科 清水充子