脊髄小脳変性症の摂食嚥下障害(2014/07)
脊髄小脳変性症(SCD)は臨床的には小脳性の運動失調症状を主体とする。遺伝性と孤発性に大別され、何れも小脳症状のみがめだつもの(純粋小脳型)と、小脳以外の病変や症状を合併するもの(非純粋小脳型)に大別される。さまざまな病型があるが、摂食嚥下障害の症状をみると、おもに小脳失調とパーキンソン症状が関与している
先行期では、失調による体幹・頚部の不安定性、上肢の協調運動・測定障害による摂食動作障害、口腔期では、舌の協調運動障害による食塊形成不全・舌の送り込み障害・口腔内残留・口腔内保持障害による嚥下反射前の咽頭流入、咽頭期では、嚥下反射の遅延・咽頭収縮の低下・喉頭挙上の不良・喉頭侵入・誤嚥・咽頭への残留・食道入口開大不全、食道期では、蠕動運動の低下・食道内逆流などがみられる。
先行期障害ではおもに小脳失調が関与しているが、口腔期・咽頭期・食道期の障害については、VF所見などで比較してみると、パーキンソン病の摂食嚥下障害に類似していると考えられる。
遺伝性SCDのSCA3/SCA6のVFの比較においては、パーキンソン症状の強いSCA3の方が、純粋小脳失調のSCA6より嚥下障害は重症との報告がみられる。(Isono C.Dysphagia. 28:413-418. 2013)
非遺伝性のSCDについても同様に、パーキンソン症状の強いほうが、摂食嚥下障害が重症であるとの臨床的経験が多い。
一方、パーキンソン症状を呈する変性疾患の解剖所見に基づいた診断による多系統萎縮症(孤発性SCD)では、生前の臨床症状を後方視的に分析して、発症から主観的な嚥下障害の出現までは中央値67ヶ月(6-109ヶ月)、構音障害発症から嚥下障害の出現までは中央値12ヶ月(0-73ヶ月)、嚥下障害出現から死亡するまでは中央値15ヶ月(6-68ヶ月)(Muller J. : Arch Neurol, 58: 259-264, 2001) と報告されている。
個人差は大きいが、進行期SCDの摂食嚥下障害には、パーキンソン病に準じた摂食嚥下障害対策が必要と思われる。
兵庫医療大学
野﨑 園子