老健で経験したビタミン、微量元素の欠乏症について(2024/11)
老健施設の入所者をみると時々軽い大球性貧血があることがあり、職場検診と比べるとやや多い気がする。
アルコール歴や胃切除後もあるが、入所前に自宅で十分な食事が取れていなかったり薬のように処方でき自己負担は少ないが微量元素配合に難のある経腸栄養剤をとっていたりする。プロトンポンプ阻害剤の長期使用も多く、微量元素やビタミンB12の欠乏症を来しやすい素地はある。
さて、84才のアルツハイマー型認知症の患者さんでBPSDが収まり認知症病棟から当老健に入所された。Hb 10.6 g/dL MCV 110 fLと大球性貧血はあるが胃切除後でなく食欲もあり常食を食べ、しばらくは何もなかった。半年が過ぎ少し食欲の無い日があるようになりHb 9.3 g/dL MCV 118.6 fLと大球性貧血の悪化をみた。その後尿路感染で39℃発熱した。抗生剤と補液を1週間した。禁食ではなかったが5割程度の食欲だった。尿路感染は良くなったが血液検査でHb 6.1 g/dL MCV 127.3 fLと強い大球性貧血が出て精査入院となった。消化管に出血はなく胃内視鏡で萎縮性胃炎と診断され、輸血2単位をした。ビタミンB12,血中Feが低くビタミンB12と鉄剤が補充されHb 11.8 g/dL MCV 109 fLと改善。またセレンも低値だった。
萎縮性胃炎では胃壁細胞が萎縮し胃酸や内因子の分泌が低下しビタミンB12,Fe,セレンなどの吸収障害を引き起こす。症状はあまりなく大球性貧血で気づかれることも多い。
老健は病院と違い精査はできず症状がなければ長期に過ごすことが多い。ただ今回のように感染をきっかけに短期間で急に症状が現れることもあり冷汗をかく。幸い患者はビタミンB12、Feは薬で補充しセレンは栄養補助食品で補充しBPSDもなく食欲も出て穏やかに過ごされるようになった。
介護老人保健施設いなば幸朋苑 施設長 金藤大三