筋強直性ジストロフィーの摂食、嚥下、栄養の問題(2009/05)
筋強直性ジストロフィーは最も頻度の高い成人の遺伝性筋疾患である。私は摂食、嚥下、栄養に関してこれほど多くのの問題を抱える可能性のある疾患を知らない。
そもそも白内障によって視力が低下し目の前にある食物が見えにくいことがある。上肢の筋力低下や筋強直(ミオトニア)によって食物を口に運ぶことが不自由で ある。一部の患者は食物がいたんでいても無頓着に口の中に入れようとする。咬筋をはじめとする咀嚼筋の筋力は著しく弱く、これを補うためかどうかはわから ないが、噛まずに丸のみ状態となることが多い。顎関節脱臼がしばしばみられる。嚥下した食物が咽頭に貯留していることは嚥下造影を行えば明らかで、それが 喉頭に侵入することもよくみられる。患者によっては誤嚥が高頻度で、誤嚥しても咳反射が誘発されないことも多い。そもそも咳そのものがあまりうまくない。 そして何よりも自らが嚥下に問題があることを自覚しない。胸部X線写真では食道が拡張しているのがわかる。CT撮 影を行うと拡張した内腔に液面がみられる。胃内容の排出は悪く、腸管の動きも悪い。便秘は普通にみられ、腹部単純写真では大量の便塊がみられる。イレウス をおこすことも多く、そのために手術を受けることもある。消化器系の悪性腫瘍は一般集団でも多いが、筋強直性ジストロフィーでは若年者に現れることがあ る。肛門括約筋は弛緩し進行した患者では便失禁もみられることがある。耐糖能異常と高インスリン血症は高頻度にみられ、糖尿病の発生率は一般集団と比較す ると明らかに高い。高脂血症の頻度も高く、内臓脂肪の蓄積も多い印象がある。
無論、目の前の患者すべてがこれらの問題すべてを示すことは決して多いわけではない。しかし起こりうる問題点を十分に念頭におきつつ、今困っている問題は何か、予後の改善と将来のQOLの改善に結びつく隠された問題は何かを判断することは極めて重要である。
独立行政法人国立病院機構東埼玉病院
川井 充