筋ジス病棟今昔(2010/07)
「いい絵ですね、元気をもらいました」と、外来に来られる患者さんから言われるとうれしくなる。「でしょう。日高君という42歳の筋ジストロフィーの患者さんが、右手のわずかに動く親指だけで、パソコンで描いたコンピューターグラフィックなんですよ。昔はこの病気では20歳ごろに亡くなっていましたが、今は人工呼吸器のお陰と彼のように生きがいを持つと長生きできるんですね」と答える。この6月から外来待合室でアート展を開いているが、草花や風景を一つ一つ丁寧に描き上げた作品が、観る人の心を打っているようである。
当院の筋ジス病棟には、絵を描いたり、短歌を作ったり、さまざまな創作活動に生きがいを見出した「芸術家」がたくさん暮らしていた。また経口摂取がかなわなくなって経管栄養にもかかわらず、テレビの料理番組を食い入るように見ながらあれこれ論評する「料理評論家」も同じくらい住んでいた。グラフィックの日高君は、「患者からみた筋ジス末期の食事について」の論評を、自著の「花の贈りもの」に書くほど料理にも精通していた。
思い起こせば、そのような患者の多くは亡くなり、生きている人もほとんど経管栄養から胃ろうでの生活となっている。医学の進歩で生命の延長はもたらされたが、多くの患者は人間本来の楽しみを奪われてしまっている。
独立行政法人国立病院機構南九州病院 福永秀敏