日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

神経筋疾患による嚥下障害に対する外科的治療(2014/11)

保存的治療で対応困難な嚥下障害に対して、耳鼻咽喉科では外科的治療を行う場合があります。外科的治療には「嚥下機能改善手術」と「誤嚥防止手術」があり、前者は音声機能を温存しつつ、食塊の咽頭通過を改善させたり、誤嚥を起こしにくくさせる手術で、後者は音声機能を犠牲にしつつも、気道と食道を分離して誤嚥を防ぐ手術です(表)。嚥下機能改善手術の方が良い手術と思われるかもしれませんが、その適応基準(手術により良好な結果が得られるための基準)は厳しく、術後のリハビリテーションが可能な意識や筋力、誤嚥したことがわかる感覚と吐き出す力がないといけません。また原疾患の進行によって嚥下機能がさらに低下すると、せっかく手術を受けてもその効果を享受できません。従って多くの神経筋疾患の患者さんは適応となりにくいのですが、筋炎による輪状咽頭筋の弛緩不全に対して輪状咽頭筋切断術が劇的な効果をもたらすなど、一部の特殊な病態の方では有効な場合もあります。
誤嚥防止手術には様々な術式が報告されておりますが、効果はあまり変わりありませんので、担当する医師の慣れている方法で行うのが良いと思います。神経筋疾患に対する誤嚥防止手術の適応基準が示されており(2013年3月号参照)、中でも①誤嚥による肺炎や窒息が生じる可能性がある②発声機能が失われている、の2点が重要です。まず可逆的な気管切開術が勧められることが多いと思われますが、気管切開術のみでは完全に誤嚥を防止できず唾液が絶えず気道に流入するため、頻回の吸引が介護者にとって重い負担となります。またカフ付き気管カニューレを留置していると、結局発声ができなくなります。誤嚥防止手術を行うことにより、唾液の気道流入がなくなり吸引回数が激減します。残念ながら発声機能は永続的に失われますが、本手術を行うような患者さんはすでに発声機能も損なわれている場合も多いので、実際上の問題はあまりありません。ただし、「あー」など一見意味の無い発声であっても、患者さんと介護する方の重要なコミュニケーション手段となっている可能性があるので、医師が勝手に不要と判断すべきではありません。気管切開を経ずに直接誤嚥防止手術を行う場合は喪失感も大きいので、事前に十分な説明を行う必要があります。どれだけ経口摂取できるかは、残存した口腔・咽頭機能に依存しており、特に筋萎縮性側索硬化症のように進行の早い球麻痺疾患では急速に経口摂取が困難となります。しかし、液体を多めに口に含んでも誤嚥しなくなるため、お楽しみ程度でも比較的長く経口摂取を楽しむことができます。介護する方も誤嚥の心配がなく経口摂取の介助ができるので、精神的に楽になります。

表 嚥下障害に対する外科的治療
嚥下機能改善手術(必要に応じて組み合わせて行う)
輪状咽頭筋切断術
喉頭挙上術(喉頭下顎接近術、喉頭舌骨固定術など)
咽頭弁形成術/咽頭縫縮術
声帯内方移動術(声帯内注入術、喉頭枠組み手術)
誤嚥防止手術(いずれかを選択)
喉頭全摘術
喉頭気管分離術/気管食道吻合術
喉頭閉鎖術(声門閉鎖術、声門下閉鎖術)
喉頭蓋管形成術

東京大学医学部耳鼻咽喉科
二藤隆春