日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

水分摂取も共有意思決定支援のひとつ(2024/07)

 

私たちは体内の水分が2%失われると運動能力が低下し始め、3%で食欲不振などの症状、4~5%で脱水症状、10%以上になると死に至る危険があります。このように、水分摂取は私たちにとって欠かすことが出来ません。しかし、嚥下障害が起きると、むせを避けるために水分摂取を拒否することがあります。身体に必要な水分を十分摂取できない患者がいる一方で、医療者のアドバイスに従えず、アドバイスとは異なる方法で水分を摂取して誤嚥性肺炎を繰り返し、水分が身体に十分摂りこまれない患者もいます。

医療者側のアドバイスを患者側が理解し継続するためには、医療者からの一方的な指導ではなく、患者個人の生活背景や価値観などを共有して一緒に決定していく、【共有意思決定支援(shared decision making)】がとても大切になります。

入院時や外来での患者とのやり取りで、「水分にとろみを付けることを勧められたが、ドロドロは嫌だ。」「とろみを付けた水分を出されたが、ベタベタして飲めなかった。」「むせるから水分は飲みたくない。」との訴えを聞くことがあります。水分摂取方法を検討する時は、とろみ調整食品導入前に口唇や舌の動き・嚥下反射のタイミングなどを考慮し、まず食具を選択し、姿勢や一口量の調整を確認してみます。とろみ調整食品を用いる必要がある場合は、患者個人の粘性のある物へのイメージを医療者側が把握するよう努めます。例えば、普段から少しとろみが付いているもの(ポタージュスープ・くず湯・100%の野菜ジュース・ネクター・ゼリー飲料など)を好んで摂取しているかを確認してみるのも良いでしょう。「ポタージュスープは飲みやすい」という場合は、薄いとろみから試してみると良いかもしれません。

患者にとって必要な粘度を医療者が一方的に伝えるのではなく、“ どのような方法ならば摂取できそうか ” をまず検討することが、前向きなアドヒアランスにも繋がります。普段から患者の生活を観察し、コミュニケーションをとり、退院後も継続しやすい個々に合った水分摂取方法を見出すための支援がとても大切です。そのためには、“ 提案し支援する ” 私たち看護・介護者が、患者の思いに寄り添う気持ちや工夫しつづける謙虚な態度を忘れないでいたいものです。

主な参考文献

*藤谷順子:嚥下調整食のコンプライアンスとアドヒアランス.The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine. 2022 ; 59 : 292-298

*有本正子.他:食べる楽しみ,味わう喜びへの支援-食事のQOL-. The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine. 2021 ; 58 : 905-911

国立精神・神経医療研究センター病院 看護部 臼井晴美