日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

歯ぎしり、食いしばりがボトックス治療で軽減できれば(2018/05)

寝ている間に歯ぎしりや食いしばりで唇や舌を咬み込み潰瘍を形成したり、著しい歯ぎしりによる歯の摩耗から露髄まで生じたりすることがあります。このような患者が月に数例ほど来院します。その対策は、咬傷予防のためのマウスガードを作成し装着するのが常です。マウスガードについては、以前「神経筋疾患患者の歯ぎしり治療のための口腔内装置」(2010/01)」で紹介しましたので参照ください。
マウスガードは、歯の摩耗、破折やギリッ、ギリッ音を防ぐことができます。歯ぎしりや食いしばりを治すものではありません。衛生管理上毎回脱着する必要があります。破れたり破損したり、口の中の状態によっては頻回に作成する必要も生じます。
最近、歯ぎしり軽減にボトックス治療が有望であるとの報告を見つけました。
「Neurology」1月17日オンライン版に歯ぎしりや食いしばりの軽減に、A型ボツリヌス毒素(ボトックス)を頬に注入する治療が有望であることが、小規模なランダム化比較試験(RCT)で示されたとの掲載がありました。このRCTは米ベイラー医科大学神経学教授のJoseph Jankovic氏らが実施したもので、この治療は頬から咀嚼筋(咬筋と側頭筋)にボトックスを注入することで咀嚼筋を収縮させる信号を遮断し、歯ぎしりや食いしばりを軽減させたというものです。対象は、睡眠中の歯ぎしりが確認された18~85歳の男女22人。13人には頬から咀嚼筋にボトックスを注入し、残る9人には有効成分が含まれていないプラセボを同様に注射し、4~8週間後に再び全ての対象者への歯ぎしりなどの症状を評価しました。その結果は、全般的な症状の改善がみられた患者はプラセボ群ではみられなかったが、ボトックス治療群では13人中6人に「大幅」または「極めて大幅」な改善が認められたとのことです。症状や痛みも同様にボトックス治療群で軽減が認められました。なお、ボトックス治療による重篤な副作用は認められなかったそうです。今回の研究でボトックス治療の有望性が示されたことから、今後は、ボトックス治療が歯ぎしり、食いしばりの治療選択肢の一つになりうるのではないかとの見解を述べられていたが、保険導入の見込みはなく、一部医療機関で自費対応をしています。このような治療の選択肢もあればと期待をしています。今週も2名ほど、ALSの患者様にマウスガードを装着しました。「ありがとうございます」と感謝されました。

国立病院機構千葉東病院 歯科医長 大塚 義顕

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