棒付き飴を用いた口腔機能検査法(2021/05)
認知症患者では口腔から咽頭への送り込みに要する時間の延長や随意での運動制御障害による口腔機能不全を認めます.したがって,認知症患者の食事支援には摂食嚥下に関わる口腔機能評価が重要です.口腔機能評価法には咬合力検査や舌圧検査など様々ありますが,認知症患者では指示に従うことができず実施困難な場合もあります.認知症患者では食事介助を要することも多く,介助者に食事ペースや一口量などが委ねられることから,より一層,摂食嚥下機能を把握しておく必要があります.したがって,日常の食事観察を通じて,口腔機能に関わる情報を得ることが多いです.しかし,これらは主観によるもので,情報共有に齟齬が生じる可能性があります.加えて認知症の進行に伴いその変化を適時に把握することも困難です.
そこで我々は認知症患者が棒付きの飴を舐めた際の1分あたりの飴の重量変化を測定する検査である舐摂(しせつ)機能検査を提案し,臨床生理学的な意義と妥当性を検討しました.棒付き飴を用いた理由は誤飲防止及び口腔内で飴を舐め動かす様が間接的に観察できる利点があるからです.チュッパチャップスを用い,2分間一生懸命舐めてもらった際の1分あたりの飴の重量変化をその値としました. 検査では見守りの者が傍につき,飴を口腔外に出さず舐め続けるよう促し,飴を噛まないよう声掛けをします.まず地域在住高齢者を対象に同検査が有用であることを確認後,認知症高齢者を対象に検討しました.その結果,舌圧検査,オーラルディアドコキネシス,反復唾液嚥下テストでは約7-8割の方で実施可能だった一方,同検査は9割強の方に可能でした.加えてVF検査より飴の重量を減らせる方ほど嚥下に要する時間(口腔通過時間や全嚥下時間)が短いという傾向が明らかとなりました.
舐摂機能検査は摂食中枢を刺激した状態の口腔機能検査で,新しい舌機能の指標として利用できる可能性が考えられます.
(参考文献)
Development of a candy-sucking test for evaluating oral function in elderly patients with dementia: A pilot study. Mori T, Yoshikawa M, Maruyama M, et al., Geriatr Gerontol Int. 2017 Nov;17(11): 1977-1981.
広島大学大学院医系科学研究科 先端歯科補綴学
吉川 峰加