日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

栄養・水分摂取の工夫のおすすめ(2013/08)

先月の清水俊夫先生の「ALSにおける栄養療法 UP TO DATE」を受け、今月は神経筋疾患の患者さんの栄養摂取法について、私の経験からお薦めしたいことをお伝え致します。

<栄養状態を確認しましょう>

身体計測と検査データから低栄養状態であるのか、また、経時的に栄養状態をチェックし、必要であれば対応策を立てて行くことがよい状態の維持につながります。
 
まず、血清アルブミン、RTP(ラピッドターンオーバープロテイン)や総蛋白などの血液生化学検査の結果を医師に、BMIや体重減少率、上腕周囲長、上腕三頭筋皮下脂肪厚、肩甲骨下部皮下脂肪厚などのチェックを栄養士さんや保健師さんから受け、栄養状態を定期的に確認しましょう。
 
また、今のように大変暑い時期には、水分、塩分、カリウムなどの摂取量も十分であるかどうか確認することが大切です。「大汗」をかく運動をするような状態でなく、ベッド上で寝ていることが多い状態ても高い気温の中では体表から水分が蒸発しています。
 

<摂取量の適量を知りましょう>

エネルギー必要量は、エネルギー消費量とエネルギー蓄積量から推定します(エネルギー必要量=エネルギー消費量±エネルギー蓄積量)。
全エネルギー消費量は基礎エネルギー×活動係数×ストレス係数で求めます。
基礎エネルギー量は、Harris-Benedictの式で下記のように求めます。
 
男性:66.47+13.75×体重(kg)+5.0×身長(cm)-6.75×年齢
女性:655.1+9.56×体重(kg)+1.85×身長(cm)-4.68×年齢
 
活動係数は、寝たきり1.0、ベッド上安静1.2、ベッド外活動1.3~1.4、ストレス係数は、飢餓状態0.6~1.0、骨折1.1~1.3、重症感染症1.5~1.6、多発外傷1.4、がん1.1~1.3などで計算します。
低栄養状態では、エネルギー消費量+200~500kcalで計算します。
必要水分量は、35ml(高齢者30ml、若年者40ml)×体重(kg)で計算します。体重50㎏ならば 1750 mlとなります。
 

<摂取方法を工夫しましょう>

そして、大切なことは、必要な栄養や水分が確実に、安全に摂取できることです。舌、口唇、軟口蓋、咽頭の運動障害により咀嚼や口腔内の食物の移送に困難が生じてくると、摂食に時間がかかったり、疲労しやすくなったりします。それにより一食の摂取量が減り、それが栄養状態を下げることにつながります。消化器系に疾患があるわけではなく、摂り込めないだけで飢餓状態に陥ることを避けましょう。そのためには、経口で口腔機能の問題をクリアできる食べやすい献立をとりいれること、補助的に胃瘻や間欠的チューブ栄養法を用いることなどが薦められます。好みで食べたいものを優先して食べ、優先順位の低いものは食べやすい形にしたものを補助栄養で摂っても良いのです。市販の栄養補助食品を上手に利用したり、かけるソースの工夫1)で味にバラエティをつけながら食べやすくすることもよいでしょう。一日三食の食事時間で摂りきれなければ、間におやつで摂ってもよいでしょう。また、身体に穴を開けて摂るというイメージの胃瘻は、抵抗を持たれることが多いですが、栄養状態がわるくなってからの造設には感染症や褥瘡などの合併症をおこしてしまう危険性が高まります。経口摂取を楽しめるためにも元気な時に胃瘻を造るようお薦めします。
嚥下リハに携わる専門家の方々には、患者さんの症状やご希望に合わせて、これらのことを是非お薦めください。
 
1)嚥下食をおいしくする101のソース:中山書店
 

埼玉県総合リハビリテーションセンター 言語聴覚科 清水充子