東日本大震災レポート(6) 兵庫県医師会医療救援チームに参加して
私は、兵庫県医師会医療救援チームの第28陣として5月16日~18日の間、石巻市に災害医療支援に行ってきました。石巻市で活動する医療支援チームは、災害医療コーディネータである石巻赤十字病院の石井正先生の統括下に担当エリアが割り付けられており、兵庫県医師会チームは石巻中学校を拠点とするエリアの代表チームを任されていました。毎夕、午後6時半に石巻赤十字病院で全エリアの代表メンバーが集まって全体ミーティングがあり、石井先生から状況報告や要請があり、それぞれのチームが要望や問題点を出します。それらの内容を翌朝のエリアミーティングで各エリアを担当する支援グループに伝えるという体制です。被災地には、毎日、実に様々な支援グループや調査団体が入ってきますので、このような体制は支援活動がうまく機能するために極めて重要と感じました。
兵庫県医師会チームは、石巻中学校で外来診療を行うチームと、エリア内の他の避難所を巡回するチームに分かれて活動しました。状況は慢性期にあり、慢性疾患患者の再診がほとんどでした。多くの診療所が診療を再開していますが、通院のための交通手段がなく、医療救援チームの再診を続けているケースが多かったです。その中で災害地特有の問題が二つありました。一つは家の片付けで外傷を負うケースです。津波で運ばれたヘドロのために創は汚染されていますので、このようなケースはほぼ全例、破傷風トキソイド投与の適応になると思います。私が行った当時、石巻赤十字病院でも備蓄している破傷風トキソイドをどのように使用するか検討中でした。もう一つは、気管支炎様の患者が増加傾向にあることでした。感染症ではなく、ヘドロ(汚泥)からの粉塵と焚火が原因のようです。嚥下性肺炎は、少なくとも私が参加した全体ミーティングでは問題とはなっていませんでした。
私の予想では、最も対応が立ち遅れるのは、自宅にとどまっている、外来受診できない寝たきりあるいは要介護の在宅患者であり、そのような患者さんの肺炎や褥瘡などの悪化が懸念されると思ったのですが、エリア担当保健師によると、エリアには訪問診療のニーズのある患者は今のところいないとのことでした。エリア毎に保健師がローラー作戦で一軒一軒チェックした由です。摂食・嚥下障害に対する医療ニーズも、おそらく各エリア担当保健師が最もよく把握していると思うのですが、多くの診療所が再開している現在、何か医療支援を行う場合は、地元医師会と緊密な連携の下に、長期的な視野に立って行うべき時期に来ていると感じました。以上、手短ではございますが、石巻市の医療支援体制についてレポートさせていただきました。
兵庫医科大学 越久 仁敬