東日本大震災が経腸栄養剤の使用にもたらした混乱についての一考察(2011/04)
東日本大震災が残した傷跡は限りなく大きいが、その中でいくつかの医薬品が製造工場の被災によって供給でいなくなって混乱がおこっていることも無視できない。「栄養面」では経腸栄養剤であるエンシュア・リキッド缶およびエンシュアH缶が供給不能となっていることにより、神経疾患を診療する我々はいかにこの「医薬品」に依存していたかをあらためて認識させられることとなった。5月末にはバニラ風味であれば供給は再開される見込みとアボットジャパン社のホームページに書かれているので、混乱は限定的とみられている。
これに関連して厚生労働省から4月1日に発出された「経腸栄養剤の適正使用に関するお願い」には
「経腸栄養剤については薬事法上の医薬品として承認を得ているもののほか、いわゆる医療食としての扱いを受けている類似の製品があります。在宅療養患者等の場合には、いわゆる医療食への切り換えにより自己負担が増大することから、当面、経腸栄養剤(医薬品)については、外科手術後の患者など真に必要な患者への使用を最優先していただきつつも、入院患者でいわゆる医療食等を用いた食事療養が可能な患者については、出来る限り院内での食事療養費で対応していただくこととし、在宅患者等へ医薬品を優先的に使用することとしていただきたいこと。」
と書かれており、
1)この医薬品が真に必要な患者は外科手術後の患者など一部に限られること
2)医療食の扱いを受けている類似の製品があり、切り替えられること
3)事実上在宅療養患者の自己負担軽減のために使われていること
を厚生労働省自身も認めていることがわかる。
医師の処方箋にしたがって使用される「医薬品」扱いの栄養剤はいくつか存在するが、消化管機能に問題がなく、糖尿病、肝疾患、腎疾患などの特定の病態を対象としない、いわゆる一般的半消化態栄養剤は、2007年にエーザイのクリニミールが、2010年に味の素のハーモニックMとハーモニックFが製造販売中止になって、使用できるものがエンシュア・リキッド、エンシュアHの他にラコールに限られることになった。このあたりの事情が今度の震災の影響をさらに大きくしているものと考えることができよう。
エンシュア・リキッドもエンシュアHも、経口投与できることになっているが、効能・効果には「一般に、手術後患者の栄養保持に用いることができるが、特に長期にわたり、経口的食事摂取が困難な場合の経管栄養補給に使用する」と書かれていて、保険の査定でこの部分が影響してくることもあるという話を耳にしたこともある。今回の混乱は一刻もはやく収拾されることを祈るばかりであるが、さらにそのあとの成り行きも気になるところである。
国立病院機構東埼玉病院 川井 充