日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

摂食・嚥下障害と倫理 ―第15回岐阜大会のご案内―(2018/10)

第15回日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会(2019年10月19日)を岐阜県の長良国際会議場で開催することになりました.多くの会員の皆様のご参加を心よりお待ち致しております.今回はテーマを「神経筋疾患患者さんのQOLを高める~倫理から栄養まで~」に致しました.テーマに「倫理」を加えましたのは,摂食・嚥下障害を認める患者さんの診療においてしばしば臨床倫理的問題で悩むためです.このため特別講演を,この問題にお詳しい浜松市リハビリテーション病院院長,藤島一郎先生にお願い致しました.
摂食・嚥下障害における臨床倫理については「摂食嚥下障害の倫理(箕岡真子,稲葉一人,藤島一郎著;ワールドプランニング 社)」において詳しいのでご一読をお薦めしますが,個人的に考える最も難しい問題は「高度の嚥下障害を呈する患者さんが『死んでもいいから食べたい』と訴えたときにどのように向き合うか?」です.最近も病棟でその議論をし,主治医とともに悩みました.以前拝聴した藤島先生のご講義や上記書籍を参考に重要なポイントをまとめると以下のようになるかと思います.
・ まず嚥下障害を呈する患者さんに多様性があることを理解し,進行性の有無,回復・治癒の可能性,症状の変動の有無,認知機能や病識の確認など,どのような疾患のどの時点を見ているのかを理解する.
・ つぎに,正確な評価と診断を行い,嚥下障害を治療できるか否かを明確にする.つまり医学的事実を明らかにすることが大切で,そのつぎに倫理的判断を行う.このとき,年齢や認知機能によって差別が生じないようにする.
・ 治療方針に関する自己決定能力・意思表示能力があるかを明らかにする.
・ コミュニケーションを十分にとり,「死んでもいいから食べたい」という訴えの真意を探る.
・ 1人で考え込まず,倫理カンファレンスを行う.
・ この問題の倫理的ジレンマは,倫理4原則の「本人の願望を尊重したい」とする自律尊重原則と,「肺炎を予防し栄養状態を改善したい」という善行原則・無危害原則の衝突である.いずれを優先するかについては「患者さんにとって最善利益はなにか?」を第一に考えて,症例ごとに熟慮する.
・ 結論を出す以上に大切なことは,その結論を出すためのプロセス,つまり話し合い・コミュニケーションの経緯である.医師は医学的事項や倫理的事項に関して提示を行い,患者さんや家族が結論を出すための手助けを行う.そしてadvanced care planningやshared decision makingにつなげていく.
第15回岐阜大会ではこのような議論のほか,教育セミナーとして「服薬障害と薬剤性嚥下障害」「神経難病における栄養障害とその対策」「歯科的観点からみる神経疾患における口腔ケア」「認知症の栄養障害」を予定しています.皆様にお目にかかることをとても楽しみに致しております..
岐阜大学大学院医学系研究科神経内科・老年学分野
下畑 享良