摂食・嚥下とコミュニケーション支援(2012/05)
神経筋疾患により摂食・嚥下障害を合併する場合は、発声や構音(発音)など、コミュニケーション障害をも合併することが多くあります。
体幹筋、呼吸筋の筋力低下により声が大きく出せない、続けて話すための発声がしにくく、息が切れるような話し方になるなどの問題や、唇や舌、軟口蓋の筋力低下により発音が不明瞭になるなどの症状が現れてきます。これらの症状がある場合は、ほぼ同時に食事の際に嚥下と呼吸のバランスが取りにくく息苦しい感じがしたり、口腔内の運動がしにくいために、形のある献立が噛みにくく、さらに嚥下の前に食物を口腔内でまとめることや喉の方へ送り込むことが難しくなるなどの症状が現れてきます。今回は、これらの症状がある場合の工夫のポイントをお伝えしましょう。
まず、会話にも食事にも、体幹が安定して楽になれる姿勢をとります。必要な場合は、椅子の背もたれやクッションを利用して頸部まで支えます。上肢や下肢の安定も体幹の安定に影響しますので、注意を払います。呼吸が楽な姿勢は、安全な嚥下と発声のためにもよい姿勢となります。どのような姿勢がより望ましいかは、状況によって異なりますので、できれば担当の理学療法士にみていただくことをお勧めします。また、会話をするときに息苦しくなる一つの理由に、一息で話すことができる時間が短くなっていることがあります。その場合は、息継ぎの回数を増やして話しやすくします。単語や句で区切ると楽になり、明瞭度も上がることがあります。呼吸の仕方は、上胸部や頸部で力まずに、できるだけゆっくりとした腹式呼吸を利用することが楽な発声につなげるコツです。その具体的な方法は、言語聴覚士にご相談ください。
口腔内の運動に障害がある場合は、食物はまとまりのよい柔らかい形態にしたり、適宜水分量を増やすなどの工夫をして安全性を高めます。口唇や舌の運動障害があり、発音が不明瞭になってこられた場合は、コミュニケーションをサポートする道具や機器を活用することを考えて行きます。身体的な障害のみでなく意思伝達がしにくくなることで、欲求や気持ちの表現や疎通が阻まれることは、患者さんが尊重された生を支えることに大きな支障をきたしますので対応が必要です。個々の詳しい方法については、作業療法士、言語聴覚士にご相談ください。
以上のようないずれの手法や機器も、適切な時期に必要な対応を進めることが大切です。「まだいい」と思われる時期から、早めに「こんな方法がある」ということを、さり気なく患者さん本人やご家族が知っておかれることも、スムースな導入につながります。この領域のリハビリテーションに携わる者としては、情報収集や提供に努めて行きたいと思っています。
参考文献:木村浩彰:疾患の進行にあわせたコミュニケーション機器の選択、難病と宅ケア 15(6):47ー50,2009
埼玉県総合リハビリテーションセンター
言語聴覚士 清水充子