日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

安全な術後管理を考慮した気管切開術(2016/02)

神経筋疾患に対する気管切開術は、呼吸不全や嚥下障害などにより行われ、ほとんどの場合、気管孔を閉鎖することができず永続的な管理が必要となります。気管切開術に関するトラブルは、患者に不利益をもたらすばかりでなく、気管カニューレの管理を行う神経内科医や訪問診療医にも不安とストレスをもたらします。気管切開術の長期経過後の合併症として、気管孔や気管内の肉芽(出血、感染、気道狭窄)、腕頭動脈瘻などがあります(2010/12のコラムも参照)。気管切開術を行う場合は、介護施設や在宅での安全な管理のため、できるだけトラブルの生じないように配慮すべきです。
誤嚥の著しい患者では、絶えず唾液が気管孔からあふれ、皮膚や皮下組織に感染と不良肉芽増生をもたらします。気管カニューレという異物が留置された状態では容易に除菌されず、緑膿菌やMRSAなどの感染も伴いより難治な状態となります。その予防法として、気管切開時に皮膚と気管を縫合し、皮下組織を覆った状態とする「気管開窓術」があります(図1、2)1)。すでに気管切開術がなされ気管孔肉芽が生じている場合も同様な処置が可能ですが、できれば初回手術時に一期的に行った方が患者さんの負担が小さくなります。気管カニューレ周囲から痰や呼気が若干漏れやすくなるため、気管孔を大きく作りすぎないようにします。
腕頭動脈瘻は気管カニューレが気管前壁に接触することによって生じるため、高い位置に気管孔を造設し、腕頭動脈との距離を遠ざけることにより予防できる可能性があります。近年は、輪状軟骨レベルでの気管切開術も行われるようになっています2)。腕頭動脈瘻は側弯や胸郭の変形を伴うような患者さんで生じることが多く、全ての患者さんで配慮する必要はありませんが、術後は定期的に内視鏡で気管内腔の状態を観察した方がよいでしょう。

東京大学医学部耳鼻咽喉科

二藤隆春

参考文献:
1)二藤隆春:気管切開術.嚥下医学5(1): 23-25, 2016.
2)鹿野真人:気管切開術.嚥下医学5(1): 28-33, 2016

図1 気管開窓術(文献1より)

気管開窓術(文献1より)

2 気管開窓術1年後

(図1とは異なる症例)

気管開窓術1年後