日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

安全な栄養(2009/07)

筋ジストロフィーや神経難病、あるいは重症心身障害児など、長期の入院生活を余儀なくされている患者さんほど、「できることなら口から味わって食べたい」という希望は強いものである。もちろん、そこで働くスタッフの思いも同じで、食材や形態、食事方法 などさまざまな工夫を試みながら経口摂取にこだわっている。
 ところが患者さんの思いやQOLの重視は、一歩間違えば危険と隣り合わせであることを忘れるわけにはいかない。
 当院に入院していた60歳代のALSの男性は、介護者の必死の努力で経口摂取を続けていたが誤嚥を繰り返し、肺炎を併発して亡くなられた。また20歳代の重症児の男性は経口摂取ができなくなり胃チューブとなり、毎回細心の注意で挿管していた。ところがある日、 気管への誤挿管となり、100mlほどの栄養剤が肺に入ってしまった。「医師法21条」の警察への届け出が頭をよぎったが、関係する診療科を挙げての必死の努力で、幸いにも完全に回復できた。また近隣の病院では80歳代のパーキンソン病の男性が嘔吐で救急外来に運 ばれ、処置中に窒息死している。重症児の子どもは介助による食事の後で嘔吐し、その後誤嚥性肺炎となり死亡している。そして、それぞれの家族から提訴され係争中だと 聞いている。
 一昔前には、特に老人では「自分で口から食べられなくなったら最期」という考え方が、共通認識だった。ところが医学(栄養)の進歩により、栄養補給のやり方も、胃チューブからの栄養補給のみならず、胃ろう、腸ろうなどが急速に一般化している。「患者さんの 願いに答える」を第一義としながらも、安全に行えるのか、臨床の現場では日々葛藤が続けられている。

 

独立行政法人国立病院機構南九州病院

福永秀敏