多系統萎縮症の嚥下障害に関する初のコンセンサス・ステートメント(2022/03)
多系統萎縮症(Multiple System Atrophy:MSA)は,自律神経障害に加えて,小脳性運動失調やパーキンソニズムを呈する神経変性疾患です.嚥下障害をしばしば合併し,運動症状の出現後5年以内に出現することが診断において役に立ちます.口腔・咽頭相の嚥下障害,食道機能障害,誤嚥が生じ,誤嚥性肺炎は本症の死因としても重要です.
しかしこれまで本症の嚥下障害に関するエビデンスに基づくガイドラインはありませんでした.このため2017年10月,コンセンサス・ステートメント作成のための国際会議がイタリアのボローニャで開催されました.その後,2019年8月から2020年10月までの文献を対象としたシステマティックレビューがなされ,昨年,その結果が報告されました.まず279論文が検索され,最終的に27件の研究が組み入れ基準を満たし,このステートメントの基礎となりました.特筆すべきは,うち12件が本邦からの論文であり,我が国の本症への貢献が窺えます.ただし各研究のエビデンスレベルは米国神経学会のClinical Practice Guidelineに則った評価で,診断に関する研究の大部分はクラスIIIないしIV,予後に関する研究はクラスII~IV,治療に関する研究はすべてクラスIVと必ずしも高くありません.
診断に関しては,診断時および定期的に,スクリーニング質問票や嚥下造影検査,嚥下内視鏡検査,マノメトリーといった検査を行い評価する必要があること,また誤嚥性肺炎は疾患の重症度とのみ相関することなどが記載されています.予後に関しては,嚥下障害が生存率の低下と関連するという2つの報告があるものの,嚥下障害がQOLに影響するか,もしくはどのような嚥下障害の所見が生存率に影響するかは不明と述べています.治療に関しては,多職種チームによるアプローチが有効であること,食事内容の改善や,姿勢の調節などを可能な限り行うべきと述べています.PEGの有効性についても記載されていますが,QOLや生存率への影響は不明です.
以上のように,本論文はMSAの嚥下障害に関するアンメットニーズを明らかにするもので,今後,取り組むべき研究に重要な示唆を与えます.ぜひご一読いただければと思います.
文献
Calandra-Buonaura G, et al. Dysphagia in multiple system atrophy consensus statement on diagnosis, prognosis and treatment. Parkinsonism Relat Disord. 2021;86:124-132.
岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野
下畑 享良