多系統萎縮症の嚥下障害にどう対応する? QOLと栄養維持の狭間で(2015/03)
多系統萎縮症は10万人に5人程度の有病率で、小脳性運動失調が目立つ型(multiple system atrophy-cerebellar :MSA-C)とパーキンソニズムが目立つ型(multiple system atrophy -parkinsonism :MSA-P)の2つに分類されます。 我が国では、MSA-Cが67.4~83.8%、MSA-Pが16.2~32.6%の頻度です。MSA-Pは自律神経障害(起立性低血圧や尿失禁)とパーキンソン症候群症状の運動障害があり、レボドパの効果は乏しく、小脳や脳幹の萎縮がみられ錐体路障害も呈します。MSA-Pの参の患者さんの嚥下障害と栄養管理の問題は医療の現場での大きな問題です。
ここではごく最近経験したMSA-Pの3方を例にとってご説明します。3例の嚥下に関連した症状は、1)起立性低血圧、2)頸部が固く(筋強剛)頸部前屈位が保持困難、3)咀嚼の減弱と咽頭への送り込み障害、4)咽頭感覚の低下、5)嚥下反射の惹起遅延と咽頭残留、6)咽頭通過の左右差、7)嗄声や声帯の動きの左右差、8)咳嗽力の低下がみられました。さらに、摂食により疲労し、しだいに嚥下反射が遅延し、嚥下時の喉頭挙上が減弱しました。睡眠時無呼吸も認めました。ADLとしては、臥床時間が長く、血圧を測定し安定している時に車椅子座位をとれる状態でした。
そこで、これらの嚥下障害にどう対応すべきか、ケアプランをたてました。まず、患者さんの疲労を考慮して最小限の訓練を行い、代償法による誤嚥予防や口腔咽頭ケアにより肺炎予防を目指しました。
体位調整は、リクライニング位30~45度、枕を2つ使用して頸部が後屈しないよう前屈姿勢の工夫、咽頭通過が良い側を下にした一側嚥下のポジショニングを血圧測定しながら行いました。スライスゼリーの摂食介助、1口量はティースプン1/2量、口腔咽頭残留がなくなるまでの複数回嚥下、息こらえ嚥下などをうながしました。
その結果、患者さん達は皆さん再び食べることが1日の楽しみの1つとなり、満足感が得られました。しかしながら疲労感は改善せず、ゼリー1個の摂取に20~30分を要し、1日必要量の経口摂取は難しいことが分かりましたので、体力維持を考えまして胃瘻栄養に変更しました。一方で、口から食べ続ける方法を継続、生活の質の維持に努めました。
3人とも自宅へ退院されました。その後の経過としては、お一人は早朝に突然死されました。MSAの在宅療養において、栄養管理と同じように、呼吸管理がもう一つの重要なテーマであることが知られており、嚥下・栄養管理と共にこうした突然死の原因ともなりうる呼吸管理についてもチーム医療で関わることが必要だと考えます。
参考文献
1. Watanabe H, Saito Y, Terao S et al. Progression and prognosis in multiple system atrophy. Brain. 125(5). 1070-1083,2002.
2. 山本敏之 .多系統萎縮症の摂食・嚥下障害とその対策.コミュニケーション障害学.30.89-94,2013.
京都府立医科大学 在宅チーム医療推進学講座
山根 由起子(摂食・嚥下障害看護認定看護師)