日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

多系統萎縮症に対する病名告知,真実告知(2020/07)

多系統萎縮症は中年期以降に発症する孤発性神経変性疾患である.突然死をきたしうることから,病名告知に加え,突然死に関する真実告知をいつ,いかに行なうかという難しい課題がある(文献1;図1).医師の対応は経験的に,①突然死の危険性が高くなる進行期まで告知を避けるという考え方と,②未告知の状態で,入院中などの突然死が生じることを避けるため,診断時に突然死の可能性があることを告知するという対照的な2つの考え方がある.いずれにも問題があり,①は突然死の危険性を正確に予見することができないこと,②は診断されて間もない時期においては,患者,家族の不安を増長しうることが挙げられる.私の場合,患者には知る権利があることから基本的に伝えるが,病前・病後の性格,認知症や精神疾患の合併,悪い知らせであってもどれだけ知りたがっているか等を考慮し,患者ごとに方針を決めている.また真実告知のタイミングは主治医との信頼関係はできたか,突然死のリスクは差し迫っているかを考慮して決めている.
つまり真実告知を行う上で,具体的に考慮すべきは,患者の精神状態,認知機能,突然死の危険性の度合いである.まずうつ病や不安などの精神状態,そして認知機能障害の有無を十分に把握する.患者や家族の不安の程度や理解度を確認しながら,段階的に説明し,相互の信頼(ラポール)の形成を目指す.つぎに突然死をきたす可能性が高い患者では,より早期に,しかしより細やかな配慮をもって説明する必要がある.ただし突然死の危険因子については上述の通り,十分に明らかにされていない.今後,前方視的検討により同定する必要があるが,経験的には重症の中枢性睡眠時無呼吸,中枢性頻呼吸,Cheyne-Stokes呼吸,もしくは高度の嚥下障害を認める症例は注意が必要である.
以上のように個々の症例に応じて,説明のタイミングや内容を総合的に判断する.そして医療チーム全体が情報を共有し,その後の療養体制を構築し,患者,家族の不安を軽減し,支える必要がある.

文献
1. 下畑享良:成人神経難病における呼吸障害に対する倫理的な論点.脳と発達52; 171-173, 2020

図表の説明

202007

 

岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野

下畑享良