日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

多系統萎縮症における遠位食道痙攣(distal esophageal spasm)の発見(2025/02)

多系統萎縮症(multiple system atrophy;MSA)における嚥下障害への対策は,生命予後やQOLの維持を考えるうえでとても重要です.以前,私どもは嚥下障害を伴うMSA患者では,ALS患者と比較しても食道内の食物停滞が高頻度に発生し,場合によっては逆流して誤嚥性肺炎や窒息による突然死の原因となりうることを報告しました1).今回,当科の大野陽哉先生と國枝顕二郎先生らがMSA症例の食道機能障害に関連して,「遠位食道痙攣(distal esophageal spasm:DES)」という現象が生じうることを初めて明らかにしましたのでご紹介します2)

症例は74歳男性で,3年前に起立性低血圧にて発症し,同時に胸に食べ物が詰まった感じ,食後の反復性嘔吐を呈しました.小脳性運動失調が認められ,MSA-Cと診断しました.ビデオ透視による嚥下検査では,下部食道狭窄と食道内のバリウム停滞が認められました.また内視鏡検査では下部食道の過収縮が認められました.さらに高解像度食道マノメトリー検査では下部食道の早期収縮と食道蠕動運動の低下が認められました.下部食道括約筋の統合弛緩圧は正常であったため,アカラシアは除外されました.シカゴ分類ver 4.0に基づき,食道運動障害は「遠位食道痙攣」に分類されました.治療としては内視鏡的バルーン拡張術を行い,その後,胸部の詰まった感じと嘔吐は改善しました.本例は,MSA患者においてDESが食道食物の停滞と食後嘔吐を引き起こす可能性があること,およびその治療法を示した点で非常に有益であると考えました.

以上より,ビデオ内視鏡による嚥下検査に加えて,高解像度食道マノメトリー検査は,再発性の嘔吐や胸のつかえを呈するMSA患者に有用と考えられます.このように食道機能を注意深く評価することで,誤嚥性肺炎や窒息死を予防することができる可能性があります.なお,遠位食道痙攣についてはZaherらの総説3)に詳しいです.

1)  Taniguchi H, Nakayama H, Hori K, et al. Esophageal Involvement in Multiple System Atrophy. Dysphagia. 2015;30:669-73.
2)  Ono Y*, Kunieda K*, Takada J, et al. (*equally contributed) Distal oesophageal spasm in a patient with multiple system atrophy: A case report. eNeurologicalSci. 2024 Apr 13;35:100500.
3)  Zaher EA, Patel P, Atia G, et al. Distal Esophageal Spasm: An Updated Review. Cureus. 2023;15:e41504.

岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野

下畑 享良