多系統萎縮症における栄養状態(2016/11)
多系統萎縮症(MSA)は,小脳脳幹系,錐体外路系,自律神経系が変性する疾患ですが,他の変性疾患と同様に疾患の進行に伴い体重が減少することはよく経験するところです。小脳失調またはパーキンソン症状などによる運動障害のほか,主に交感神経遠心系の障害による自律神経不全症,嚥下障害,声帯麻痺・中枢性低換気・睡眠時無呼吸などの呼吸障害など多彩な症状を呈し,エネルギー代謝のバランスが大きく崩れていく疾患です。嚥下障害は必発であり,生命予後改善のためにはほぼ全例において胃瘻をはじめとする経腸栄養が必要になりますが,これまで系統だった栄養障害の評価や栄養管理の報告はほとんどありません。
MSAの体重変化は,胃瘻造設・気管切開前の病初期と,コミュニケーション障害にいたる進行期にわけて考える必要があります。胃瘻造設・気管切開前は,運動障害により日常の活動量が低下するにもかかわらず急速な体重減少を示します。私たちはMSA患者28例に対し,体格指数(BMI),上腕三頭筋皮脂厚(TSF),上腕筋周囲長(AMC)を計測したところ,BMIおよび骨格筋量の指標であるAMCは罹病期間とともに減少していき,胃瘻造設患者では有意に低下していました(文献)。一方皮下脂肪量の指標であるTSFは罹病期間とは相関が認められず,MSAでは経腸栄養が必要となる時期には,筋蛋白障害により体重減少が起きることが示唆されました。一方,10年以上の長期経過のMSA例では,とくに胃瘻造設・気管切開後コミュニケーションが困難になる時期において,エネルギー摂取量が極端に少ないにもかかわらずBMIが増加する傾向を示しました。図に代表的な1例のBMIの推移を示します(文献)。気管切開・胃瘻造設時にはBMIが16 kg/m2であったのが,進行期には750 kcal/日の少ないエネルギー投与量にもかかわらずBMIが20 kg/m2以上で推移しているのがわかります。
MSAの進行期は,例外なく著明なパーキンソニズム(固縮・拘縮)で臥床状態となります。パーキンソン病では進行期(Yahr V)も著しい痩せを呈しますが,MSAの進行期は逆に肥満傾向になります。もちろん症例によって異なりますが,寝たきりのパーキンソニズムで太っていたらMSAを疑えというくらい,両疾患の間には代謝状態に差があると思われます。パーキンソン病における持続的な筋固縮はエネルギー消費を増大させますが,MSAでは拘縮が主体となるためかもしれません。また,MSAでは,視床下部障害などによりエネルギー代謝の中枢性機構が破綻し,その結果低代謝・脂肪蓄積に至っている可能性も考えられます。
MSAの栄養療法については報告がほとんどなく,胃瘻造設の適応やタイミング,またはその後の栄養療法についてはまったく確立していません。今後のエビデンスの蓄積が必要です。
MSAの体重変化は,胃瘻造設・気管切開前の病初期と,コミュニケーション障害にいたる進行期にわけて考える必要があります。胃瘻造設・気管切開前は,運動障害により日常の活動量が低下するにもかかわらず急速な体重減少を示します。私たちはMSA患者28例に対し,体格指数(BMI),上腕三頭筋皮脂厚(TSF),上腕筋周囲長(AMC)を計測したところ,BMIおよび骨格筋量の指標であるAMCは罹病期間とともに減少していき,胃瘻造設患者では有意に低下していました(文献)。一方皮下脂肪量の指標であるTSFは罹病期間とは相関が認められず,MSAでは経腸栄養が必要となる時期には,筋蛋白障害により体重減少が起きることが示唆されました。一方,10年以上の長期経過のMSA例では,とくに胃瘻造設・気管切開後コミュニケーションが困難になる時期において,エネルギー摂取量が極端に少ないにもかかわらずBMIが増加する傾向を示しました。図に代表的な1例のBMIの推移を示します(文献)。気管切開・胃瘻造設時にはBMIが16 kg/m2であったのが,進行期には750 kcal/日の少ないエネルギー投与量にもかかわらずBMIが20 kg/m2以上で推移しているのがわかります。
MSAの進行期は,例外なく著明なパーキンソニズム(固縮・拘縮)で臥床状態となります。パーキンソン病では進行期(Yahr V)も著しい痩せを呈しますが,MSAの進行期は逆に肥満傾向になります。もちろん症例によって異なりますが,寝たきりのパーキンソニズムで太っていたらMSAを疑えというくらい,両疾患の間には代謝状態に差があると思われます。パーキンソン病における持続的な筋固縮はエネルギー消費を増大させますが,MSAでは拘縮が主体となるためかもしれません。また,MSAでは,視床下部障害などによりエネルギー代謝の中枢性機構が破綻し,その結果低代謝・脂肪蓄積に至っている可能性も考えられます。
MSAの栄養療法については報告がほとんどなく,胃瘻造設の適応やタイミング,またはその後の栄養療法についてはまったく確立していません。今後のエビデンスの蓄積が必要です。
東京都立神経病院 脳神経内科 清水俊夫
文献
長岡詩子,清水俊夫,松倉時子ほか.多系統萎縮症の栄養障害−早期経管栄養導入と進行期のカロリー制限の必要性−.臨床神経2010;50:141-146.
長岡詩子,清水俊夫,松倉時子ほか.多系統萎縮症の栄養障害−早期経管栄養導入と進行期のカロリー制限の必要性−.臨床神経2010;50:141-146.
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