声を取り戻す装置Voice Retrieverの開発(2022/05)
自分は平素在宅や施設に訪問して摂食嚥下障害の患者さんを拝見することが多いです。その主たる理由は、通院が不可能な方こそ食べる機能のサポートが必要な場合が多いからです。また、現在暮らしている場だからこそ本当の状況がよくわかったり、病院のように緊張する場所ではないからこそ本当に思っていることをお話しいただけることもあるように思っています。そのようなADLの低い方の中にも喉頭摘出などで声を失った方がいらして、ADLが低いがゆえに電気式人工喉頭を買ったはいいが使えない、つまり自分で操作が不可能というケースを時々目にしていました。また、電気式人工喉頭でもかなり上手にコミュニケーションをとられている方も何人も存じ上げておりますが、この機器には避けられない弱点があります。それは音源が体外にあるということです。つまり、体内で共鳴した音のみならず、音源自体が体外で鳴っている音を周りの人が聞かないようにするわけにはいかないので、その部分がノイズとして感じられてしまいます。
食べられるようにということにアプローチするだけではなくて、なんとか話せるようにできないかとずっと考えておりましたが、ついに昨年度うちの大学院生の山田がVoice Retrieverという口腔内装置を現実のものとしてくれました。原理は極めて簡単で、上あご用のマウスピースにスピーカーを仕込んで、それがなっている間に口を動かして言葉を話すというものです。今までなぜ実用化されていないんだろうと思うくらいシンプルなアイデアですが、現在実際に40人程度の患者さんにお使いいただいております。口の中とは言え体内に音源を入れるのでノイズが少ない、スピーカーがすでにマウスピースに仕込んであるので細かい位置の補正がいらず大体15分も練習すれば使えるようになる、というのがよい点だと思っています。音質がまだまだ良くない、現行の機器では抑揚が作れない、などの弱点はありますが、最低限のスタートは切れましたので今後さらに改良を加えてゆきたいと考えております。
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科医歯学系専攻
老化制御学講座摂食嚥下リハビリテーション学分野
教授 戸原 玄
参考動画(You Tube):Voice Retrieverのご紹介