日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

嚥下障害の外科治療(2011/09)

 神経難病の嚥下障害にたいして,摂食・嚥下リハビリテーションや食物形態の調整といった代償法が破綻し,栄養障害,脱水症,誤嚥性肺炎の発症などの臨床的な問題が現れた時,外科的な治療は選択肢の一つになります.

 嚥下障害にたいする手術は,嚥下機能の改善を目的としたものと誤嚥の防止を目的としたものに大別され,嚥下機能の改善を目的とした手術には,食道入口部の開大を改善させるもの,嚥下運動の補償をするもの,咽頭圧を上昇させるためのものがあります.また,誤嚥防止を目的とした手術には,発声発語機能を温存しつつ誤嚥しにくくするもの,発声発語機能は喪失するが根治的に誤嚥を防止するものがあります.これらの手術によって経口摂取を継続することができれば,嚥下障害によって現れる臨床的な問題を解決できるだけではなく,患者様の生活の質をも改善できる可能性があります.

 ただし,外科治療は嚥下障害があるすべての神経難病患者様に適応があるわけではありません.外科治療を考慮する時期には,患者様の全身状態が悪化していることが多く,手術による侵襲や手術後の合併症のリスクを考慮しなければなりません.また,神経難病の嚥下障害は進行するため,嚥下機能の改善を目的とした手術の効果は一時的である可能性もあります.そして,誤嚥防止術は気管切開孔の造設が必要な手術であり,術式によっては永久的に発声発話機能が喪失するというデメリットがあることもよく考慮しなければなりません.このように神経難病の嚥下障害に対する外科治療は,慎重に治療適応を検討する必要はありますが,適切なタイミングに適切な手術を行うことで,嚥下障害の改善が期待できる治療法です.

 

国立精神・神経医療研究センター病院

山本敏之