嚥下障害と医学教育(2022/11)
医師となるためには6年間の大学医学部を卒業して医師国家試験に合格する必要があります。特に最後の2年間は臨床実習(実際の診療に参加する実習)を行っています。来年度に向けて、大学の医学教育について2つの大きな改革が行われます。
1つは医師法の改正で、医学生の医行為が法的に認められるようになります。医学生の医行為には、カルテ記載、身体診察、採血、心電図の装着などがあります。医学生が医行為を行うためには、その能力を保証する必要があります。各大学での教育・指導はもちろんですが、臨床実習前に実施される全国統一基準で実施する試験(知識試験と実技試験があり、両方合わせて共用試験といいます)に合格する必要があります。この共用試験は医師国家試験と同様の厳密さを求められるもので、実技試験の内容には口腔や咽頭の診察も含まれています。来年度からはこの共用試験も公的化が予定されています。
もう1つの改革は、医学生の学修目標についてです。医学部の教育内容は、文部科学省の「医学教育モデル・コア・カリキュラム」(通称 コアカリ)という学修目標で定められています。このコアカリの中には、嚥下障害、嚥下困難、誤嚥性肺炎等の摂食嚥下に関する項目も含まれています。医学・医療の進歩に合わせて、6~7年に1回改訂されます。現在令和4年度改訂版がほぼ完成し、私もワーキングメンバーとして参加しました。改訂コアカリでは「総合的に患者・生活者をみる姿勢」を明示しており、専門化・細分化に進む傾向にある医学・医療の中で、臓器横断的・総合的に患者さんの問題を捉えた上で、自身の専門領域にとどまらずに診療を行うことが重要な資質・能力であることを強調しています。さらに「患者ケアのための診療技能」と「コミュニケーション能力」で患者が抱える問題を理解し、「多職種連携能力」で、医学生がチーム医療や地域包括ケアシステムへ積極的に参加するよう促しています。摂食嚥下障害や栄養管理への対応は、まさにこれらの総合的能力、チーム医療が重要な部分です。
医学部の教育も年々改革が行われ、我々大学教員も日夜良い医師を輩出するよう努力を重ねているところです。
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 臨床医学教育開発学
山脇正永