嚥下リハビリテーションにおける感覚閾値電気刺激の有用性(2018/01)
近年,電気による末梢からの感覚刺激が大脳皮質の可塑性変化を担うとの考えに基づき1),リハビリテーションへの臨床応用が試みられている.Hamdyらは咽頭への電気刺激により嚥下関連皮質の興奮性が変化する事を2),Fraserらは健常者において感覚閾値の電気刺激を咽頭に加えながら咀嚼嚥下を行うと,非刺激時と比較してより嚥下関連皮質の脳血流が増加する事,さらに急性期脳卒中患者においても感覚閾値の咽頭電気刺激により,非損傷側の脳血流が上昇する事を報告している3).
頸部干渉波刺激(以下,IFC:Interferential Current)装置は,こうした概念に基づき,体表から嚥下関連神経を感覚閾値レベルで刺激し,嚥下反射閾値を低下させる事を目的として越久らにより発案された手法である.健常者においては,筋収縮を伴わないような感覚閾値刺激の場合,本手法のキャリア周波数2000Hz+ビート周波数50Hzから形成される干渉波刺激が,最も嚥下反射促進効果が優れている事が明らかにされている4).また脳卒中やパーキンソン病による嚥下障害例に対しては,即時効果として咽頭期嚥下機能を改善する事も報告され5),2015年7月にはジェントルスティム®の販売名で医療機器認証され,コマーシャルベースで利用可能な刺激装置となった.
最近,前田らの研究グループから,様々な嚥下障害患者に対するIFC効果をランダム化比較試験にて検証した研究結果が報告されたので,ここに紹介する6).この研究では嚥下リハビリテーション目的で入院となった高齢者嚥下障害を無作為にIFC群と偽刺激群に振り分け,1日あたりの刺激時間は30分(午前と午後でそれぞれ15分間)とし,2週間実施された.その結果,クエン酸誘発による咳反射潜時の介入後の変化量は,IFC群:−14.1±14.0秒,偽刺激群:−5.2±14.2 秒と,IFC群において有意に短縮し,かつ1日あたりの経口摂取量の変化量は,IFC群:+437±575kcal/日,偽刺激群:+138±315 kcal/日と,IFC群において有意に増加した.
従来の手法であるパルス波刺激による感覚閾値レベルの電気刺激が,嚥下障害例の誤嚥リスクを軽減する事は既に報告されていたが,その機序は不明であった.咳反射は気道防御機構を構成し, その低下は神経筋疾患を含めた嚥下障害の誤嚥性肺炎において重要な要因の1つと考えられている7).前田らの報告はIFCが気道防御性を改善させる根拠を,エビデンスレベルの高いstudyにより明確に示しており,IFCの嚥下障害への臨床応用を考える上で重要な知見と言える.
神経筋疾患は一般に経過が長いため,嚥下障害への介入法も利便性と耐容性の高い手法が望まれるが,IFCは低侵襲で快適性も高く,感覚閾値刺激では不快な筋収縮も誘発しないため食物を用いた直接訓練との相性も良い.また装着の扱いが容易でポータビリティ性も優れるため,医療機関のみならず介護施設や在宅でも利用しやすい点も好都合である.神経筋疾患における嚥下障害への展開が期待される.
1) Kaelin-Lang A et al.Modulation of human corticomotor excitability by somatosensory input. J Physiol 2002;540: 623‒33