咽頭期嚥下の惹起を促す干渉波電流刺激の有用性 延髄外側症候群の重症例について(2024/09)
延髄外側症候群では疑核、孤束核、延髄網様体を中心として構成される嚥下中枢が障害され、嚥下障害を高率に合併します。その病態は主に咽喉頭麻痺、咽頭期嚥下の惹起不全、パターン異常などです。そのうち、咽頭期嚥下が惹起されない場合には、誤嚥しやすく重症化します。この場合、様々な嚥下訓練を試みますが、効果のない場合には、これまで手術治療を施行されてきました。
近年、干渉波電流刺激(interferential current stimulation以下,IFC刺激)により咽頭期嚥下の惹起を促すことで経口摂取が可能となる症例が報告されています(嚥下医学2024)。IFC刺激はこのコラムでも2018年に紹介されています(嚥下リハビリテーションにおける感覚閾値電気刺激の有用性2018/01)。IFC刺激とは、周波数のわずかに異なる2 つの中周波電気刺激を直交させて局所に与えることによって,局所に波の干渉による「うねり」を生じさせ,深部組織を刺激する治療法です。主に感覚インパルスの賦活を治療ターゲットとした電気刺激です。頸部へのIFC刺激が咽頭および喉頭の求心性神経を刺激することで,その感覚情報が孤束核および隣接する嚥下関連ニューロンまで伝達され、IFC 刺激の相乗効果として嚥下関連ニューロンの発火頻度を上昇させたことが報告されています。
これまで、臨床的には脳血管障害、パーキンソン病、慢性閉塞性肺疾患、認知症、誤嚥性肺炎などの疾患に対する治療報告がありました。咽頭期嚥下の惹起の遅延に対する効果のみならず、延髄障害による惹起不全に対しても効果があることがわかってきました。中司らは頭部 MRI 画像で孤束核を含む病巣を認める延髄外側梗塞の2症例を提示しており、喉頭内視鏡検査では延髄病巣側の喉頭内転筋反射の惹起が不良で嚥下造影検査では咽頭期嚥下が惹起されず、孤束核の障害が疑われました。この症例に干渉波電流刺激を施行したところ,直後に咽頭期嚥下が惹起されて経口摂取の開始が可能となりました。IFC刺激による延髄健側の孤束核への感覚入力によって咽頭期嚥下が惹起されたと考えられています。また、咽頭期嚥下が惹起されることで嚥下動態が明確となり、対応方法を検討することが可能です。今後、IFC刺激により重症の嚥下障害に対する手術適応も変化する可能性があります。少数例の報告ですので、今後の治療報告の集積が期待されます。
・中司梨江,巨島文子, 他: 延髄外側梗塞による嚥下障害に干渉波電流刺激が有効であった2 例. 嚥下医学 13:63-70,2024
・Sugishita S, et al.Effects of Short Term Interferential Current Stimulation on Swallowing Reflex in Dysphagic Patients.International Journal of Speech & Language Pathology and Audiology 3:1-8, 2015
・Umezaki T, et al:Supportive effect of interferential current stimulation on susceptibility of swallowing in guinea pigs. Exp Brain Res 236:2661-2676, 2018
諏訪赤十字病院 リハビリテーション科
巨島 文子