日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

医療・介護関連肺炎と誤嚥性肺炎―肺炎の原因が嚥下障害であることも考えてー(2015/07)

国立病院機構千葉東病院
大塚 義顕

肺炎は全死亡原因の第3位でありその多くが高齢者である。最近よく聴く医療・介護関連肺炎(NHCAP)は、これからの超高齢化社会を迎えて、医療の中で介護分野が多くを占めるようになるこの時代を物語ったものであるといえる。NHCAPの患者の多くを占める在宅医療患者や医療介護施設の入所者には、後期高齢者の占める割合が大きく、誤嚥性肺炎のリスクが高いといえる。今後、介護人口の増加に伴って誤嚥性肺炎が増加し、医療介護領域におけるNHCAPの重要性が一層高まると考えられている1)
一方、誤嚥性肺炎は発症の要因による分類であり、NHCAPの発症場所を主体とする分類とは異なるため、両者は完全に同じ群ではない。スペインにおいて、わが国のNHCAPにほぼ相当する肺炎を検討した報告によれば、誤嚥性肺炎の頻度は20.6%であり、入院を要する市中肺炎における頻度(3.0%)より明らかに高いとされている2)。我が国におけるNHCAPの研究では、老人施設と長期療養施設で発症した肺炎の症例については、基礎疾患として誤嚥との関連の深い中枢神経疾患、認知症の頻度が高く、経腸栄養患者が多いという3)
同様にShindoらの研究では、中枢神経疾患の合併が40%以上、経管栄養患者が10%であったと報告されていて、不顕性誤嚥を含む誤嚥が肺炎の原因として関与している可能性が高い4)。NHCAPの中で誤嚥性肺炎が具体的にどの程度含まれるかについて、日本でも海外でもエビデンスは十分ではないが、こうしたデータからは、我が国のNHCAPの中に誤嚥性肺炎が多く含まれている可能性が高いとされる1)
このため、NHCAPと診断された際に、誤嚥性肺炎の診断根拠とされる顕性誤嚥や嚥下障害の有無1)の評価を依頼される機会が増えてきた。誤嚥性肺炎と診断された場合、抗菌薬選択は、NHCAPの治療戦略と大きくは異ならないが、口腔内常在菌、嫌気性菌に有効な薬剤を、より優先的に選択する1)。このような抗菌薬治療によって誤嚥性肺炎は一時的に軽快しても、嚥下障害はなかなか改善しないため、反復する誤嚥によって再度悪化することもある。そこで、抗菌薬治療と並行して、嚥下障害に対する対策が重要と思われる。具体的には摂食・嚥下リハビリテーションや、口腔ケア等である1)。口腔ケアには、常在細菌量の減少が期待でき、不顕性誤嚥による肺炎発症頻度を減らすというエビデンスがある5)。一方で誤嚥性肺炎予防策として、PEG造設や経鼻胃管挿入が行われることがあるが、ともにエビデンスはなく推奨されていない1)
まとめると、嫌気性菌に有効な抗菌薬選択、リハビリテーション、口腔ケアなどが、誤嚥性肺炎の治療戦略として推奨されている。しかしながら、NHCAPの中から誤嚥性肺炎を鑑別して診断と治療を行うことの意義は未だ不明の部分が多く、今後検証されるべきであろう。

【参考文献】
1)医療介護関連肺炎診療ガイドライン
第8章誤嚥性肺炎 日本呼吸学会医療系介護関連肺炎診療ガイドライン作成委員会 編
日本呼吸器学会 p32-35,東京、2012
2)Carratala J, Mykietiuk A, Fernandez-Sabe N, et al.
Health care-associated pneumonia requiring hospital admission;
epidemiogy, antibiotic therapy and clinical outcomes.
Arch Intern Med 2007;167:1393-1399
3)谷 鎮礼、冨岡洋海、金田俊彦、他.
Nursing home-acquired pneumonia 入院症例の検討―高齢者市中肺炎との比較―.
日本呼吸会誌 2009;47:355-361
4)Shindo Y, Sato S, Maruyama E, et al.
Health-Care–Associated- Pneumonia Among Hospitalized Patients in a Japanese Community Hospital.
Chest 2009;135;633-640.
5)Yoneyama T, Yoshida M, Ohrui T, et al. Oral Care Working Group.
Oral care reduces pneumonia in older patients in nursing homes.
J Am Geriatr Soc 2002;50:430-433.