日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

仰臥位と口腔(2010/06)

 ここ数年,外傷性頭部障害,低酸素脳症,脳外科手術により遷延性意識障害に陥った方々の診察の機会が増えている.当初の主治医はご家族に「生涯,口で食べることはできません」と説明し,NGチューブかPEGが用いられ仰臥位で経過する.口を使わず,仰臥位で経過すると口腔に二次的に問題が生じ,新たな摂食嚥下障害の原因となる.仰臥位では重い下顎骨とそれに付着する大きな舌の重みにより開口状態となる.頬部の3層ある重い顔面表情筋群は重力で背側に流れ,その重みは下顎前歯に騎乗した下口唇に負荷されて下顎前歯は舌側傾斜し口唇閉鎖が障害され,口腔は乾燥して口腔衛生状態は低下する,さらに上顎臼歯は挺出して下顎臼歯と接触して完全に閉口は抑制される.咬合できないために左右の臼歯列は口蓋側に傾斜して舌は口蓋に接触できなくなり,舌と口蓋による食塊の送り込みは困難になり,非経口的代替栄養法は嚥下機能に本質的な問題がなくても継続され,口腔機能は廃用性変化に陥る.
 この障害の連鎖を防止するには,早期に仰臥位から起座位に近い姿勢を採ることと「神経筋疾患患者の歯ぎしり治療のための口腔内装置」に紹介のあるプレートを早期に応用して歯牙の位置関係を守ることが必要と思われる.

 

 

大阪大学大学院 歯学研究科

高次脳口腔機能学講座 舘村 卓