人工栄養をめぐる課題(2011/07)
数年前にがんで亡くなった私の義父(78歳)は内科医だったが、自らの終末を悟り「点滴はしないでよい」と頑強に主張してみんなを困らせていたが、数日後に安らかに亡くなった。現在の日本の医療では意外に難しい事ともいえる。
また私が外来で診てきた89歳の男性は軽い認知症も併発していたが、肺炎を起こして入院した。経口摂取が困難となり、、PEG(経皮内視鏡的胃ろう造設術)を造設するかどうかが大きな問題になった。外来での長い間の奥さんとの話の模様や患者本人とのやりとりから、PEGはせず経鼻カテーテルで様子を見てくれるように主治医に頼んだ。本人の意志は正確にはつかめなかったが、これでいいのではないかと考えている。
さて人工栄養のような問題が生じるようになった背景には、次のようなことが考えられる。延命治療の考え方が変化し、「食べられなくなったら人生の最後」から、「人工栄養ででも延命をはかるべきだ」という考え方にシフトしてきたこと、PEGが手技的に簡便にでき、診療報酬点数も手厚くなったことが挙げられる。そして従来は老人保健施設や特別養護老人ホームのような施設ではPEG患者は敬遠されがちだったが、最近では経口摂取の場合のマンパワーやリスクを考えて、PEG患者の方が歓迎される傾向にある。
この問題、いのちの問題に直結することなので軽々に結論の出ることではないが、目を背けて通れない時代となっている。
NHO南九州病院 福永秀敏