プレゼンテーション、コロナで変わったこと変わらないこと(2022/10)
昔、脳神経外科教授であった植村研一先生から、スライドの作り方、学会発表のしかたなどの講義をうけた。あれは医学英語の講義だったと思うが、講演は最初の切り出しが勝負で、Ladies & Gentlemen, Dear colleagues, Dear Friendsと切り出しながら会場を見渡し3-4カ所でいいから聴衆の中から知ってる顔をみつけて目を合わせなさいと強調された。そうするとその周囲10人くらいがよそ見しなくなる。発表時間厳守であることと、討論が大事で、質問が来なければ負けだ!とも。Discussionがなければ学会に参加する意味は乏しいと強調された。
今どうかは云えないが、高校時代よく居眠りをした。英語のReaderなんて本当に眠かった。たまたま起きていたら、失恋でもしたのか?と担任だった英語の先生が心配してくれた。社会科の授業は概して眠いが高校1年の世界史は違った。第一次世界大戦前夜の欧州が映画をみているような迫力だった。そして、学生に講義をする立場になった今、医学部の講義ではほぼ学生勧誘のつもりで行ってきた。教科書を読めばわかること以外の裏側のほうがおもしろい。頭頸部外科の魅力を、嚥下医学の面白さとやり甲斐を伝えることを目指して講義する。おもしろいから一緒にやろう、がtake home messageである。
コロナ禍、学会発表も講義も本当につまらないものになった。聴衆はいつもWEBの彼方にいる。レスポンスがないどころか、もしかしたら家事をしながら片手間に、横着な輩は漫画を読んでいたり、他の仕事をしていたりかもしれない。(発表動画の事前編集も辛かったが、よい動画にはyoutuberの技術が欲しい。でもそれはまた別の話。)しかし、やっと明るさがもどってきた。つい先日、国内開催ではあるが国際学会に参加できた。シンポジウムの司会は楽しかった。質問者がマイクの前に立って待つ姿を久し振りに見た。これだこれだ。何やってんだと突っ込みをいれたくなる話題、なるほどなあと感心する話、いずれもとても楽しかった。演者も聴衆もノリがよかった。同好の士の集まりは心地よい。
今の若手、卒後3年目までの面々は学会での質疑をほとんど知らない。正解だけを求めた発表原稿をもってくる。正解がすでに決まっているなら学会報告しなくていい。討論の面白さを肌で感じるには時間がかかりそうだが、楽しい経験をさせたい。
来年のJSDNNM第19回福岡大会「嚥下障害の予後を見据えた栄養管理を模索する」(令和5年8月26日)が、そして、その前には令和5年3月3-4日に筆者の主宰となる日本嚥下医学会「嚥下について熱く語ろう!」が開催されます。多数お集まり頂き、心ゆくまで楽しくも徹底討論したいものです。
愛知医科大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科 藤本保志