日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

パーキンソン病の嚥下障害とMAO-B阻害薬(2020/12)

パーキンソン病(PD)の予後に関して、誤嚥性肺炎、窒息、栄養障害といった嚥下関連の死因が約半数を占める。したがって、嚥下障害を早期に診断し、対策を立てることは重要である。PD治療薬には様々な機序があるが、不足するドパミンの原料となるレボドパ、そしてドパミン受容体を直接刺激するドパミンアゴニストは使用頻度の高い薬剤である。最近、中枢のドパミン分解を阻害するMonoamine Oxidase type B(MAO-B)阻害薬の処方機会が増えている。セレギリンは従来使用されていたMAO-B阻害薬だが、アンフェタミン骨格を有しており、代謝産物として覚せい剤成分に類似した物質が発生するため、不眠、幻覚誘発、血圧変動などの副作用が知られていた。2018年に発売されたラサギリンはアンフェタミン骨格を持たず、副作用が少ない。また、一日1回内服で、長時間作用するため、パーキンソニズムの改善は緩やかであるが確実である。
レボドパは嚥下に関しては、有効、無効、悪化と報告は様々であり、メタ解析では無効と報告されている。1)私たちは以前ドパミンアゴニストであるロチゴチン貼付剤に、嚥下造影(VF)上の改善効果があることを報告したが(N=6)2)、その後症例数を増やして(合計N=50)レボドパ内服(200 mg/日[1日2回投与])とロチゴチン貼付(4.5㎎/日=レボドパ換算量60㎎)の効果を後方視的に比較した。3)その結果、ロチゴチンの優位性が示されたが、レボドパにも一定の機能改善効果があった。ただし、レボドパが奏効する患者の割合は低く、既報告とも合わせて、レボドパで嚥下機能が改善しない例が存在すると考えられる。一方、ロチゴチンの効果はより確実だが、その理由は何であろうか。最も大きな違いは、作用時間の差と考えられる。つまり、貼付剤は基本的に24時間効果があるが、レボドパは病初期でも内服後約1~5時間であり、進行期には内服3時間後には効果が切れ、薬効に日内・日差変動がある。残念ながらロチゴチンは非麦角系アゴニストであるため、睡眠発作の懸念から車両の運転をしないように警告が出ている。このため、長時間作用で、非麦角系ドパミンアゴニストでない薬剤が望まれている。
最近、未治療のPD患者(N=9)に、ラサギリン治療前後でVFを用いた嚥下機能の後方視的調査を行ったが4)、口腔期スコア、総得点、口腔通過時間、咽頭通過時間の有意な改善を見た。つまり、ラサギリン単剤で口腔期、咽頭期の機能改善が起こりうることを意味する。ただし、対象が少数で、初期のPDのみであること、後方視的調査であることから結果の解釈には注意が必要である。今後、追加投与(アドオン)も含む多数例での評価が必要である。

1) Melo A, Monteiro L. Parkinsonism Relat Disord 2013;19:279.
2) Hirano, et al. Dysphagia. 2015;30:452.
3) Hirano, et al. J Neurol Sci. 2019;404:5.
4) Hirano, et al. Parkinsonism Relat Disord. 2020;78:98.

近畿大学脳神経内科 平野牧人