日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

「ALSにおける頸部の筋力低下と嚥下への影響」(2016/07)

ALS患者は感覚機能と知的機能が保たれることが多く、そのために来院時より自ら頸部突出法やうなずき嚥下などの代償嚥下を獲得している方が多いです。しかし筋力低下と筋萎縮によって運動能力の低下が進み代償嚥下が行えなくなると途端にそれまでの食事が困難になります。
頸部の筋力低下が進行すると頭を自力で保持することが困難となり、ヘッドレストやネックカラーなどによって重量を支える必要がでてきます。
頸部の筋力低下が進行すると、首がすわらず頭はぐらぐらと不安定になり、仰臥位では二重顎を作るような強い頭部屈曲様の姿勢になります。レントゲン上では、健常者と比較して、オトガイは胸に引きつけられ、喉頭と舌骨の可動できる範囲は縮まり、また咽頭腔は確認できないほど狭くなっています(図1)。VFでは舌骨前方運動や喉頭挙上が悪く、食道入口部開大不全も顕著となり、咽頭残留や誤嚥が認められることがあります。
対応としては食形態や体位の調整が有効です。
食形態については、弱い嚥下圧でも食道に送り込めるように「あん」をかけるなどして流動性を高めるとよいでしょう

体位の調整については、ALS患者の訴えは信頼性が高いので本人の希望に沿わせることがポイントですがその時の要点としては頭頸部のアライメントを改善すべく頸部をやや前方に突出させることです。従来安全性が高いといわれているベッドアップ30度顎引きの姿勢では顎が胸を押し付けるような頭部過屈曲となり呼吸困難感さえ訴える患者がいます。頭部と体幹の筋力が残存しているなら座位で前傾姿勢がとれるように、座位が困難なのであればベッドアップで頭を自由に動かせるようにセッティングします。どうしても頭を保持できずヘッドレストが必要なら、背中から頭にかけてクッションを挿入することで過度な頭部屈曲を防ぐことができます(図2)。
全廃になってしまった患者への対応には難渋します。徒手的に下顎を突出させると解剖的にはやや改善されますが、喉頭や舌骨の動きは期待できません。そもそも舌骨筋群は前頸筋として屈曲の補助的役割を担っており、頸の動きが全廃ということは嚥下も同様に障害されているといえるからです。
ALSは他の神経筋疾患に比べ進行が早いと言われていますし、たとえ長期間ゆるやかでも数日単位で急速に悪化する場合もあります。つい、本人も介助者も今までの姿勢に固執してしまいがちですが、頸の動きの悪さは外見上や徒手的に判断しやすいのでそれらが観察されると嚥下の悪化を予想し食形態の変更や検査時期を調整するとよいでしょう。
進行に合わせて対応するためには常に一歩先の対策を用意する必要があります。しかし本人や家族の気持ちが追い付かないことも多いので、進行が速いほど話し合いの時間は十分にもちたいものです。
NHO高松医療センター 言語聴覚士 三好まみ
図1―60代女性 図1-20代男性
図1(60代 女性 ALS) (20代 男性 健常者)
 図2
 図2