「パーキンソン病における胃ろう造設」について(2023/11)
第19回JSDNNM学術集会福岡大会(2023年8月)において、国際医療福祉大学の荻野美恵子先生のセッションでも取り上げられた「パーキンソン病における胃ろう造設」について、私見を交えて考察したいと思います。
パーキンソン病における嚥下障害
パーキンソン病(以下、PD)では、病期の進行とともに、約8割の患者さんで嚥下障害を合併するといわれています1。当院で死亡転帰まで追跡できたPD連続 91例の解析によると、誤嚥性肺炎および窒息が死因の約6割を占めており、それらの原因となる嚥下障害は生命予後に直結する重大な合併症であることがわかります。(図1)
進行期PDに特有の”悪循環”
その1 栄養の問題
摂食動作に必要な上肢・体幹の機能、および嚥下機能・認知機能が低下することから、食事・水分の摂取が必要量に満たなくなってきます。その結果、嚥下関連筋群の筋力低下だけでなく、栄養障害から免疫力低下をきたすために、さらに肺炎を発症しやすくなります。
その2 内服管理の問題
抗PD薬の薬効が得られている”on時間”には調子よく動けますが、薬効が切れる”off時間”には動きにくくなるというように、症状に日内変動が出てくるのが特徴的です。この時期には、頻回の抗PD薬の内服が必要になります。”off時間”には嚥下機能低下から抗PD薬の内服困難が生じるので、さらに動きが悪くなるという悪循環が生じます。そうすると、リハビリテーションも続けることができなくなり、パーキンソン症状が急激に悪化してしまいます。
これらの悪循環に陥らないために、確実に内服や食事を摂取できる経路として経管栄養(経鼻胃管あるいは胃ろう)の導入が検討されます。PDの経過については個人差があるもののかなり予測可能であることを考慮すると、胃ろう導入を含む進行期の治療計画のできるだけ早いうちからの情報提供が重要と考えられます。
胃ろう造設時の早期合併症
PD及びパーキンソン症候群の93例を解析した結果、最も一般的な早期合併症は誤嚥性肺炎 (22%) であり、次いで、創部感染 (8.4%)、腸穿孔 (1.2%)であったとの報告2があります。
術後の誤嚥性肺炎発症を防ぐためには、頻回の喀痰の吸引、体位交換、口腔ケアを含む、進行期PDに対応した介護・看護体制をとる必要があります。普段から診療を受けている脳神経内科以外での入院 (消化器内科や外科)になる場合には、事前の情報交換を行うなど特別な注意が必要です。
長期生命予後について
PDでは、胃ろう導入により確実に内服や食事を摂取できる経路ができることで、生活の質(QOL)を大きく改善することができます。しかしながら、さらに病気が進行すると薬が以前のようには効かなくなったり、誤嚥性肺炎を繰り返すようになります。その原因として、自身の唾液や胃内容物の逆流を誤嚥することが挙げられます。当院データでは、胃ろう造設後の生命予後は、症例によりばらつきがありますが、中央値で約2年という結果でした。(図2)
胃ろう造設後の生命予後及びQOLや、誤嚥性肺炎の反復を防ぐための戦略に関してのエビデンスは乏しく、今後のさらなる研究が必要と考えられます。
胃ろう導入における葛藤
嚥下障害が抗PD薬の服用に重大な問題を引き起こしていて、薬の投与により十分な臨床的改善が得られる状態なのであれば、胃ろうの導入を検討すべき時期かもしれません。しかし、胃ろう導入を決めることは容易ではありません。まず、胃ろう造設術を受けたいと最初から考える患者さんや家族はいません。また、いずれは経口摂取ができずに胃ろうからの栄養に依存する状態となり延命治療の意味合いが強まることから、多くは躊躇してしまいます。胃ろう造設術を決めきれないでいるうちに肺炎を繰り返し体重が激減して、その後にやっと手術を決められた、というケースも少なくありません。あるいは、在宅療養が困難となり施設入所となった際に胃ろうが望まれるというケースもあります。
嚥下障害や栄養障害の程度を見ながら複数回にわたり説明の時間をとること、また胃ろうの目的や予想される結果について誤解を生じさせないような説明を行うことが、PD進行期の治療において大事だと考えます。
文献
1 J G Kalf, et al. Parkinsonism Relat Disord. 2012;18(4):311-5.
2 Lisa Brown, et al. Mov Disord Clin Pract. 2020;7(5):509-515.
国立病院機構 宇多野病院
臨床研究部、脳神経内科
冨田 聡