神経難病の摂食嚥下障害患者への対応における看護師の役割(2024/04)
神経難病の摂食嚥下障害の合併症状は早期からみられることもありますが、多くの場合は緩徐に進行します。パーキンソン病患者の摂食嚥下障害については主観的症状から推定された障害は35%でも、客観的測定では82%1)で障害を認める報告があり、自覚情報に加えて客観的評価からも適切な対応が必要です。また、筋萎縮性側索硬化症は咀嚼障害、舌筋萎縮、咳反射の低下2)があり、嚥下関連筋の筋力低下による嚥下圧低下が障害の中心3)でもあります。嚥下障害に影響を与える要因には各疾患の病態の特徴や体重減少、筋萎縮、筋肉量の不可逆的な減少などがあり適宜評価が必要です。患者の経時変化をきたす因子には心身の動き、経口摂取量、摂食嚥下機能、基礎代謝量に伴う総エネルギー必要量などがあります。例えば、「体重の減少」「食物が喉にひっかかる」などEAT-10(簡易嚥下状態評価)による主観的評価とMNA(簡易栄養状態評価)による栄養状態低下の関連4)や、疾患の病期によるエネルギー代謝の変容、嚥下障害、呼吸障害、運動失調による栄養障害の特徴5)が示されています。これらの対応には、嚥下調整食の提供、摂取方法の検討、介助の程度の検討、栄養摂取手段や栄養状態の改善などがあり、さらには患者の意思や苦痛も配慮し、QOLが低下しないよう楽しみや自尊心の維持を含めて多職種で包括的に目標を考えることが理想です。
多職種が関わる中で看護師の役割には、主観的な症状の観察や客観的評価に関するスクリーニングなどから、早めに専門職との協働に繋げることや家族や介護職へ適宜説明することなども含まれます。看護師役割の質の向上を行うには、例えば、嚥下調査票による主観的、客観的な評価を看護師が行うことで、摂食嚥下に関する症状の評価から適切な食形態や食行動の対応を検討でき、患者や家族への指導が向上する6)報告があります。これは症状の根拠についての知識を深めることで判断力が向上し、患者の意欲に添う状況ともなりえます。また、客観的評価の検査結果の情報も重要視し、他職種と協働しながら患者と関わる経験から質を向上することも考えられます。
神経難病の摂食嚥下障害の関わりは長期に渡ります。在宅療養においても摂食嚥下調査票(EAT-10など)を用いて主観的症状を確認することは可能です。あるいは、病院の専門的な評価がある場合は、機能の面に介護環境の面を加えて個別性を考慮し、生活の場で実施可能なプランを模索します。看護師は先を見据えて患者や家族と話し合い、QOLが低下しない配慮を行いながら適宜知識や技術を提供する必要があります。そのためには、可能な限り経口摂取の可能性を探る、リスクに備えながら安全安楽な介助を行う、介護・看護職が省察的実践による支援をする、家族や介護職に状況を説明し経口摂取の継続・中止の合意を得る7)のような行動や主介護者への摂食嚥下リハビリテーション教育8)などをプランに取り込めると良いのではないかと考えます。これら、患者や家族への関わりや多職種協働の調整など、看護師の役割を遂行する取り組みは重要です。
1)Kalf JG, et al:Prevalence of oropharyngeal dysphagia in Parkinson’s disease:a meta-analysis. Parkinsonism and Related
Disorders 18,311-315.2012.
2)Ruoppolo G, et al:Dysphagia in amyotrophic lateral sclerosis:prevalence and clinical findings. Acta Neurol Scand. 128(6),397-401.2013.
3)市原典子 : 筋萎縮性側索硬化症.病院と在宅をつなぐ脳神経内科の摂食嚥下障害.野崎園子(編).pp12-17.2018.全日本病院出版会.
4)斉藤雅史:神経難病患者における簡易嚥下状態評価(EAT-10)と栄養状態との関連.難病と在宅ケア.28(1),33-36.2022.
5)能勢彰子:神経難病の疾患ごとの特徴に合わせた栄養管理.難病と在宅ケア.29(8),20-23.2023.
6)北村智美他:摂食嚥下調査票導入による看護師の摂食嚥下評価の変化.日本摂食嚥下リハビリテーション学会誌.22(3),273-277.2018.
7)清水みどり他:摂食嚥下機能低下を認める特別養護老人ホーム入所者の経口摂取支援のための看護職役割行動指標の作成―看護-介護連携に着目してー.千葉看護学会誌.23(1),11-20.2017.
8)松田明子:摂食・嚥下障害の症状の改善をめざした主介護者に対する教育介入研究.日本摂食嚥下リハビリテーション学会誌.7(2),126-133.2003.
旭川医科大学医学部看護学科看護学講座 山根 由起子