日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

神経筋疾患の栄養管理(2011/12)

神経筋疾患の診療において,適切な栄養管理をおこなうことが予後に大きな影響を与える事がわかってきました.適切な栄養管理をおこなう上で最も重要な事は,まずエネルギー必要量を知る事かと思われます.一般的には,ハリス・ベネディクトの式を用いて基礎代謝量(BMR)を算出する方法が多用されておりますが,この方法は米国人でのデータから出されたもので,アジア人では健常人でも8.5%程度過大評価されるといわれております.それと比較して独立行政法人国立健康・栄養研究所から出されたGanpuleらの式は日本人のデータをもとに作成されたもので,日本人の実測値との比較において,ハリス・ベネディクトの式よりも良好な結果が得られています.Ganpuleらの式のさらに良い点は,体重と身長から求める式の他に脂肪量(FM)と除脂肪量(FFM)から求める式がある事です.神経筋疾患の場合,疾患や病期によっては筋萎縮などのためFMとFFMの比率が著しく正常値からはずれていることもあり,それを反影できる算出方法がより有用と考えられます.我々の未発表データでも,進行期の筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者における実測値(二重標識水法による)との比較において,FMとFFMを用いてGanpuleらの式から算出した推測値が最も実測値に近似し,変動係数も6.7%と比較的低値でした.
 
体脂肪量の測定方法はいくつかありますが,最も簡便で普及しているのは生体インピーダンス法です.当院では多周波インピーダンス法(MLT-50、セキスイメディカル電子株式会社)を使用しております.ただし,あまりにも筋萎縮が著しい場合は,測定値に誤差が出る可能性があるようですのでご注意下さい.
 
神経・筋疾患の栄養管理をおこなっておられる皆様も,是非,Ganpuleらの式を使用されてみてはいかがでしょうか.
 
<Ganpuleらの式>
BMR=0.1238+0.0481×体重+0.0234×身長-0.0138×年齢-0.5473×(男性1女性2)
BMR=2.3958+0.0787×FFM-0.0109×年齢+0.0268×FM-0.3314×(男性1女性2)
 
参考文献
Ganpule AA, Tanaka S, Ishikawa-Takata K, Tabata I. Interindividualvariability in sleeping metabolic rate in Japanese subjects. Eur J Clin Nutr.2007 Nov ; 61(11) : 1256-61.
 

高松医療センター 神経内科

市原典子