日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

大災害時の摂食・嚥下・栄養対策(2011/05)

 この度の東北関東大震災をうけ、当研究会(JSDNNM)では、被災された患者さん達が、摂食・嚥下・栄養の領域で、どのような試練に立たされ、研究会としてどう対処すべきかを検討すべきと考え、被災地の情報を広く収集し、それを発信する試みを始めています。

 

 震災の発生当初は救命を中心に救急処置が主体であり、摂食・嚥下・栄養障害までは手が回らないというのが実情であったかと思います。しかし、大震災発生から2ヶ月が過ぎ、幾分人心地がついた現在、様々な形で摂食・嚥下・栄養の問題が出てきている様子が、会員から送って頂いたメッセージや被災地の方から頂いた情報、或いは報道などから窺い知ることが出来ます。以下にそうした事例の幾つかを紹介してみます。

 

(1)普通食が食べられない被災者の事例:炊き出しご飯やおにぎりが実際は硬くて食べられないのであるが、せっかくの好意に「硬いから食べられない」とは遠慮があって言えない。それでお湯をかけて食べたところ誤嚥してしまった。「とろみ」の差し入れがあったものの、それをどう使ってよいのか、適切な使用方法がわからなかったという。確かにこうした「とろみ」も、説明がなかったり、日頃介護の経験がないと、戸惑ってしまわれると思います。嚥下障害があって、水分がのみにくいという事態は、周囲の人には理解してもらいにくい。従って単にペットボトルを支給されても水が飲めない。結果として脱水になる。特殊な例では、食物アレルギーに対応できる食材は、こうした震災救援物質には全く配慮されておらず、食べられる食事がないという事態も起きているようです。

 

(2)経腸栄養剤の不足:すでによく知られているように経腸栄養剤の製造ラインが被災したため、現在尚出荷量が減少していて、被災地でも経管栄養の使用量を減らさざるを得ない事態が生じた。また、「薬剤扱いの経腸栄養剤」は入手できず、同じ経腸栄養剤であっても「食品扱いの経腸栄養剤」は、全額実費となって負担がかかるという制度上の問題が追い討ちをかけた。

 

(3)ライフライン復旧の遅れ:水道水が使えず十分な口腔ケアができない(嚥下リハビリテーション学会のホームページに、「大規模災害時の口腔ケアに関する報告集」が掲載されている)。水の供給量が少なく、赤ちゃんのミルクが作れないが、母親はストレスで母乳が出ない。

 

(4)薬の剤形調整が必要な方における問題:薬剤の支給は錠剤が多く、小児や高齢者のように粉砕や水薬を必要とする人たちには服用しにくい。

 

(5)排便コントロールの問題:避難所生活では、トイレの使用が自由にならず、便秘がちになる。さりとて、下剤を服用して下痢になってしまうと、さらに困る。

 

 以上のようにこれまで経験のない広域の大震災に遭遇し、しかも事態が長期化するにつれて、時間経過と共に新たな問題も発生する状況にあります。当研究会では、こうした摂食・嚥下・栄養の領域の問題点を収集し、ホームページを通して情報を共有し、問題解決のアイデアを会員の皆様から頂き、素早く発信できればと願っています。神経筋疾患患者さんのみならず、被災者や家族、関係者の方々に役立てばありがたいと思います。多くの方々からの体験談やメッセージをお寄せくださいますようお願いします。

 

兵庫医療大学 リハビリテーション学部 野﨑園子