口の機能の一端を測る:舌圧検査について(2017/12)
超高齢社会を迎えたわが国では,医科,歯科,介護との連携がますます重要となっています.患者さんの「口から食べる能力」についても,この連携下において評価し必要に応じで治療・リハビリテーション等の取り組みを行っていきます.その際,疾患の有無,残っている歯の本数や,う蝕・歯周病の有無,義歯の適合,口腔清掃状態などは多職種で情報を共有できても,「食べる機能」を数値で客観的に評価することは今まで十分ではありませんでした.
「食べる機能」は舌と深く関連しています.しかしながら,これまで舌機能を簡便に測定・診断できる方法がありませんでした.JMS舌圧測定器はこの舌機能を,一部ではありますが,簡便に数値で評価し,医療や介護の現場での良好な連携,相乗効果を生み出すことができます.
ディスポーザブルの口腔内プローブを,口蓋前方部と舌で,随意に最大の力で押しつぶさせ,プローブ内圧の変化を舌圧として測定します(図1).JMS舌圧測定器(図2)は国内で医療器具として承認され,大規模な疫学的研究はもちろん,医療・介護施設における,各個人のための口腔機能の客観的評価や治療介入時の評価等で用いられています.結果が数値で即座に表れることで患者さんに理解してもらいやすく,フィードバックすることが可能で,各種口腔機能向上訓練の際には,患者さんのみならず,指導者の動機づけにも利用することが出来ます.この舌圧を用いた疫学的研究1)では,853名の健常有歯顎者の協力を得て,年代別の舌圧標準値を明らかにしました.舌圧は全身の筋力と同様に,若いころは男性が女性よりも大きく,加齢とともに男女差は無くなり,60歳代以降は低下します.
一方で,舌圧と「食事時のむせ」との関係2)や「高齢者の嚥下時の食物残留」との関係3)が明らかとなり,舌圧と食事形態との関係では,30 kPa以上を示す者は全員常食を摂取していた一方,20 kPa未満ではその半数以上が嚥下調整食を摂取していることも報告されています4).
今後ますます廃用や低栄養による嚥下障害患者が増加することが予測され,その評価・治療・リハビリテーションの場面でもこの舌圧検査が活躍し,私たちに重要な情報を提供してくれることが期待されています.
1) Utanohara Y, Hayashi R, Yoshikawa M, Yoshida M, Tsuga K, Akagawa Y. Standard Values of Maximum Tongue Pressure Taken Using Newly Developed Disposable Tongue Pressure Measurement Device. Dysphagia, 23: 286-290, 2008.
2) Yoshida M, Kikutani T, Tsuga K, Utanohara Y, Hayashi R, Akagawa Y. Decreased Tongue Pressure Reflects Symptom of Dysphagia. Dysphagia, 21: 61-65, 2006.
3) Ono T, Kumakura I, Arimoto M, Hori K, Dong J, Iwata H, Nokubi T, Tsuga K, Akagawa Y. Influence of bite force and tongue pressure on oro-pharyngeal residue in the elderly. Gerodontology, 24: 143-50, 2007.
4) 田中陽子,中野優子ほか.入院患者および高齢者福祉施設入所者を対象とした食事形態と舌圧,握力および歩行能力の関連について.日摂食嚥下リハ会誌,19(1): 52-62,2015.
図1 | 図2 |