日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

体重10%減少の前にが目安:ALS医療における胃瘻造設の時期(2011/11)

 当院のALS医療相談室は平成5年、当時は国府台病院、の発足であるので、かれこれ18年が経過する。筋萎縮性側索硬化症(ALS)に関する様々な相談に応じている。その中で、胃瘻造設の時期の決定と人工呼吸器の選択は、患者のみならず、家族、医療スタッフにとって大きな問題である。ALSという病名告知をうけた患者(家族も)にとって、それまでの生活は一変する。病気にまつわる実に様々な事を理解しなければならないし、治療の選択、決断が待ちかまえている。患者は変化する身体機能を実感する中で、崩れゆく自己イメージの再構築が求められる。その中で、身体に傷をつけ、人工呼吸器と共に在る自己の姿を想像し、受け入れることは容易なことではない。

 

 医療者側からすれば、栄養を確保し体力を維持し生命予後を改善するこれらの処置は、当然として受け入れられるであろうとの思いこみがあるが、患者にとっては、常にストレスフルな話題である。医療者は患者の自己イメージ再確立を助けるべく、繰り返し説明する必要がある。それには相当の時間を要す。ALSと診断されて、決心がついて実際に胃瘻の造設が成されるまでには、1~2年はあっという間に過ぎる。こうした中で胃瘻をつけるタイミングは常に遅れがちとなる。適切な時期を失した場合の大きな問題は、生命予後を悪くすること、更に、胃瘻造設と気管切開が同時になってしまう可能性があるということである。気管切開人工呼吸器の選択を決意した患者はともかくとして、そうでない患者では、胃瘻造設そのものが出来ないことにもなりかねない。

 

 では、一体胃瘻造設の望ましいタイミングは何時か。明示されている判断基準の一つは、呼吸機能からの判断で、%FVC が50% を割らない内にというものである。しかし、この基準は現場の患者にとってはピント来ない。分かりづらい。患者は自己イメージの再構築に苦慮している。そうした状況で難しい理詰めの説明は受け入れられにくい。分かりやすい基準で、分かりやすく説明する。患者の理解を助け、ストレートに納得して頂ける説明が必要である。その基準こそが、体重の10%減少阻止基準である。理由は、体重が発病前後のベスト体重の1割を切ってからの胃瘻造設では生命予後が著しく悪化してしまうからである。患者には胃瘻をつけて、メタボを気にせず、体重を維持して長生きしましょうと分かりやすく説明する。こうした説明は、比較的スムースに受け入れられ、早期の胃瘻造設の決心を助ける。

 

鎌ヶ谷総合病院 千葉神経難病医療センター

湯浅龍彦