日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

京都伝統産業で介護食器を楽しむ(2016/10) 

京滋摂食嚥下を考える会では美味しい和食や和菓子の嚥下食プロジェクトを行っています.一方で,美しく盛りつけても介護用のスプーンが入らず,柔らかい食品をすくいにくい,介護食器(器やスプーン)はプラスチック製などが多く,食事の魅力が半減するという意見もありました.そこで、京焼・清水焼と京漆器の職人さんが製作の視点から、京都産業技術研究所がデザインの視点から、日本料理アカデミーが京料理の視点から、そして当会が医療・介護の視点から検討する形で、摂食嚥下に配慮した,京料理に相応しい機能的な介護食器を作成する共同プロジェクトが始まりました.
当会の作業療法士からは、既存の介護食器の利点と問題点について説明し、嚥下調整食の形態や使いやすい形状などを職人さんに説明しました。筋力が低い方でも握りやすい、すくい易い、量が多くなりすぎない構造を検討し,実際に試用していただいて評価しました.
食べる楽しみや喜びにつながり食欲が増進する,美しい食器やデザインを目指しました.一方,材質,質感についても検討しました.漆器は艶や質感が素晴らしく高級感があるのみならず,熱伝導率が低く口当たりが優しく細菌に強い特徴があります.
京料理の視点では、料理全体の見た目・質感・味・香り・イメージ・ストーリーのバランスが重視され、それらを作り出すのが食器です.提供する料理によって,食器の柄や形がもつ伝統・歴史を紐解きながら、機能的かつ意匠をこらした「作品」としての食器を考えました.
2015年京都で開催された日本摂食嚥下リハビリテーション学会では,敬老の日をテーマに季節感のある食器の絵柄と料理を展示し,実際に患者様に試食していただきました.普段はあまり食の進まない方が自食で完食されました.
本プロジェクトでは「安全に美味しく摂取できる食事」を発展させ「総合芸術として楽しみや喜びを感じられる食文化」を提供し、摂食嚥下に制限がある高齢者の生活をより活き活きと豊かなものにすると考えています.地域の伝統産業を介護食器に取り入れた食文化の提案は京都の地域経済活性化の一助にもなると思います.
新しい介護食器は、京都の介護施設などでの和菓子イベントや高齢者向けの各種催事での使用され始めました.今後は京料理による嚥下調整食のレシピ集,料亭やホテルなどでの使用や小売りルートでの販売などを検討しています.

京都第一赤十字病院 巨島文子

 

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