継続的クレンチング訓練の咬合力賦活効果(2020/08)
加齢による筋力低下は,咀嚼機能ならびに腸管機能を低下させて長期的には低栄養を経てフレイルを生じます.したがって,高齢者が日常生活を支障なく送るためには,低栄養の予防のために腸管での栄養吸収状態の維持が必要です.そのためには,食物は細かくされて消化される必要があり,咀嚼機能を向上させて唾液と混ぜ合わせることが必要です.咀嚼機能を向上させる方法の一つは,咀嚼運動を促すような食事を摂ることであり,そのためには咬合力を改善,維持しなければなりません.
筆者は,特別の器具や装置を用いずに日常生活で簡単に行える咬合力の賦活方法として,自身で最も強く噛みしめる(クレンチング)訓練を試験的に行い,興味ある結果を得ましたのでその概要を記します.
施設入所中の要介護高齢者6名を対象に行いました.密閉容器の蓋のような樹脂製の板(厚み2mm)を15×70(mm)の短冊形に整形した訓練用プレートを,毎日少なくとも1回,可能な限り最大の咬合力で5秒間以上,上下の奥歯の間で咬合していただき,咬合機能の主たる役割を担う咬筋の筋活動と咬合力の3次元方向の分力を測定しました.結果の詳細は、文献をご参照ください。
訓練開始前,持続的な咬みしめの指示にもかかわらず,筋活動は短時間で休止する断続的な活動だけであり,咬合力の方向の分析では,上下方向の分力は小さく,前後左右の水平方向の分力が観察されただけでした.このことは,咀嚼運動を促す食事を提供しても,持続的に噛み砕いて磨り潰すことはできず,腸管での栄養吸収状態は改善できないことを伺わせます.
訓練開始,9週後では全員で持続的な筋活動になり,咬合力の方向は,4週後に全員で上下方向の要素が見られるようになりました.このことは,単純な噛みしめ訓練で正常な咀嚼運動に変化し,食事物性を改善できる可能性を伺わせます.
神経疾患の患者さんにおいても,咬合できる期間には同様の訓練によって,正常な咀嚼機能を維持することが可能ではないかと考えております.
参考:舘村 卓,他:要介護高齢者における継続的クレンチング訓練の咬合力賦活効果-筋電図,3軸力センサを用いた解析-.顎顔面補綴,43(1):26-35,2020.
一般社団法人 TOUCH/TOUCH口腔機能回復センター
舘村 卓